中小企業1社が倒産で自殺者は40人増

まず、失業や企業の倒産によって自殺者が増える。日本の自殺者数は1997年の2万4391人から1998年には8000人以上増えて3万2863人となり、その後2013年までの16年間にわたって年間3万人以上で高止まりした。特に、中高年男性の増加が顕著だった。

これは、1997年11月に北海道拓殖銀行や山一證券などの金融機関が経営破綻を起こし、日本が金融危機に見舞われたことに由来する。企業の資金繰りが悪化した結果、企業の倒産は1996年の1万4834件から97年には1万6464件、98年には1万8988件と増えた。失業率は1997年の3.4%から1998年には4.1%に急上昇し、2002年には5.4%にまでなった。

自殺者数の推移
厚労省「令和元年中における自殺の状況」

あるデータ分析によると、失業や倒産と自殺との間には因果関係がある。日本では失業率が1%上昇することで、男性の自殺者数が約2200人増えると推計されているのだ。中小企業が1社倒産することでは自殺者は46人増える。

つまり、もしコロナの影響で1997年の金融危機の時並みに失業率が2%増えたら、自殺者が4000人以上増えることになる。

Googleのデータを利用して行われた最新の分析によると、確かにコロナショック後に人の移動が減った地域では倒産が増えている。そして、東京商工リサーチの最近の調査によると、コロナ関連で54社が倒産したという(4月13日現在)。前述の推計に基づけば、この倒産で自殺者が2000人以上増えることになる。

大地震も超大型台風も待ってはくれない

このように、経済が命に及ぼす影響は決して小さなものではない。場合によっては、コロナが直接奪う命よりもはるかに多い可能性すらあるのだ。

また、そもそも所得が多い人ほど長生きする。アメリカでは上位20%の高所得者は下位20%の低所得者よりも平均寿命が2年余り長い。所得が多いと、ストレスが小さく、よりよい医療を受けられるからだ。それを踏まえると、コロナを生き延びたとしても、経済規制で失業して所得が減れば、本来の寿命を全うできない人もたくさん出てくるはずだ。

さらに長い目で見れば、コロナ後にもさまざまな災害が予見されている。南海トラフ地震や超大型台風などの自然災害はコロナで人類が苦しんでいるからといって忖度そんたくしてくれるわけではなく、「今そこにある危機」そのものだ。

その被害を抑えるためには強靭きょうじんなインフラや防災対策が必要で、それには予算が不可欠だ。しかし、コロナで経済が縮小し、公的な補助金や助成金のための支出が激増すれば、財政赤字を抱える日本は今後災害対策に十分な予算を回せなくなってしまう。

適切に災害対策に予算を使えば、人命が救われることははっきりしている。例えば岩手県大船渡市の越喜来小学校では、ある市議の度重なる要望で2010年に約400万円の予算で避難通路が造られた。翌年東日本大震災で津波が来た時に児童たちはその通路を通って避難し、被害者は出なかったという。