1カ月の東京完全ロックダウンで28兆円分が吹き飛ぶ

このように、コロナ対策による経済の縮小は人命に直結する。だからこそコロナ対策と経済をバランスさせ、コロナ感染拡大を抑えながらもできる限り経済を回していくことが必要だ。

特に、緊急事態宣言を全都道府県に対して発令することで、全国の経済が崩壊してしまわないようにしなければならない。

筆者と兵庫県立大学の井上寛康は、東京の完全ロックダウン、つまり生活必需産業以外の生産が完全停止される経済的影響を試算した。東京だけがロックダウンしても、その影響はサプライチェーンの途絶を通じて全国に波及し、1カ月で28兆円分の付加価値生産額(GDPの5.2%)の減少となると推計された。

緊急事態宣言に基づく規制では、限られた業種の休業が指示できるのみで、政府や自治体が生活必需産業以外の生産を停止させる権限は持たない。しかし、日本は「空気を読む」社会であり、生産を停止するのが規範となれば、企業が自主的に生産を停止することは十分にありうる。

実際、現場作業員がコロナで亡くなった清水建設は、自主的に緊急事態宣言地域での作業をすべて停止した。

在宅勤務で生産性は50%ダウン?

そもそも、対象地域では人との接触を8割減らし出勤を7割減らすことが要請されているが、この要請通りにするならば、生活必需産業以外の企業はほとんど休止しなければならないことになる。

もし全国に対する緊急事態宣言が各地の完全ロックダウン、もしくはそれに近い状態を引き起こせば、その経済的影響は数十兆では済まないだろう。全国に緊急事態宣言が出されたとはいえ、各都道府県は感染を抑えながらもできるだけ経済活動を維持する工夫をしていかなければならない。

まずは、オンラインを利用したテレワーク(在宅勤務)を進めていくことが必要だ。そのためには、政府・自治体はテレワークのための設備投資や情報提供に対して手厚い支援をしていくべきだ。

すでに経済産業省は、中小企業に対してテレワーク導入の設備投資に要する費用の3分の2を補助する「IT導入補助金」を実施している。総務省は、テレワークの専門家が無料でアドバイスする「テレワークマネージャー派遣事業」を行っている。これらの支援策を中小企業に周知して、必要ならば予算を拡大することが望まれる。

ただし、オンラインが顔をつき合わせたコミュニケーションを完全に代替できるわけではない。

最近の調査によると、コロナ対策の在宅勤務で管理・事務部門の主観的生産性は約半分に減少している。回答者の多くは、顔をつき合わせたコミュニケーションによる効率的な情報交換ができなくなることをデメリットとして挙げている。

また、そもそもテレワークが不可能な業種や職種も多い。工場や飲食店での業務がそうだ。さらには、スーパーや運輸業など生活のために絶対に必要な業種も含まれる。