「それからGW明けの発売号も柳井さん推薦の本をメーンにした特集をやるから、そのデスクも頼むな」
「えー、特集のデスクもですか! 私、単行本の仕事も初めてですし、同時にできるでしょうか」
「大丈夫だ。いいか、トヨタ自動車の張(富士夫)社長(当時)は、人間の能力は無限大だ、と言っている。オレもそう思う。だからできるぞ!」
「ひょえー!」
と、いうことで私は、あっという間にこの日から単行本の発刊日まで雑誌の特集デスクと単行本発行という普段の「2倍のノルマ」を課せられることになってしまった。
「Iのノロイ」さんがくれた“十字架”の意味
アバウト、いい加減、無責任、人の話を聞いてない……私は編集者になって約15年ほどたつが、友人は私が出版社に入ったことを心底驚いた。まずは物事を整理することができない人間であること。机の汚さは半端でない。そしてかなりの優柔不断で何事も決断が遅い。学生のときは親から、いまは奥さんから「早く決めなさい」と言われてばかりいる。さらに最大の問題はアバウトな性格だ。大学のサークル時代、何のイベントを企画しても進行、会計と何かと抜けが多く、友人から非難囂々の嵐。いい加減で無責任なヤツと言われ続けた。そこでついたあだなが「どんぶり君」だった。
そんな私は「2倍のノルマ」を課せられたその日の夜、どうしてよいかわからず、とりあえず酒を飲んで早めに寝てしまった。すると夢にまで鬼編集長が登場し、「もっと働け!」と私を苦しめたのである。そのとき、私の目前に救いの女神が現れた。よく見るとその女神は編集部のIさんだった。そう、そのIさんは2004年の記事「編集部員がトライ!『グズの大忙し』脱出日記」を書いたあの「Iのノロイ」さんだ。Iさんはあの記事を書いて以来、いつも机はピカピカで「ノロイ」どころか仕事をテキパキと片づけるようになった。そのIさんは私に“十字架”のようなものを渡してくれ、その時点で目が覚めた。