在籍出向を開始する前に、セレブリックスでは面談が行われた。担当したのは、営業代行の部門のマネジャーやリーダー、つまり「営業のプロ」たちだった。
面談担当者の口からは、営業手法をとことん分析して導き出された理論や、それを実践して実績に繋げてきた自信に裏打ちされた言葉がどんどん出てくる。営業について熱く語る姿に「ビビッときました」と久保井さんは話す。
「『これは何かが違う』と、在籍出向に期待が持てました」
最初に2日間の研修が行われ、営業の理論、「原理原則」についての座学やロールプレーイングをみっちり行ったうえでOJTに入る。OJT中も月に2回は半日の研修があり、日々の営業活動の中身を座学で確認して活動に反映させる。
1日150件電話をかけ、アポが取れたら訪問
朝は9時ごろセレブリックスに出勤。10人程度のチームの中で、プロジェクトリーダーの下、セレブリックスが受注した新規営業代行業務を担う。リーダーの設計した業務戦略に基づき、ひたすら電話と訪問営業だ。
「1日150件電話をかけます。アポが取れたら訪問です」(久保井さん)
電話や訪問などの営業活動は、午後6時に終わらせ、日報にまとめて翌日の準備を行う。
単に数をこなすだけではない。コール数はもちろん、電話が繋がった数、キーマンと接触できた数、アポが取れた数などを毎日数値化。行動量と成果の相関関係を細かく分析する。同時に電話での会話内容をチェックし、「なぜ」うまくいったか、うまくいかなかったかを徹底的に分析する。定量、定性の両面から分析を行うことで、より正確な課題が見えてくる。そしてこれらの数値や分析結果はチーム内で共有され、チームとしての実績向上に繋げるのだ。
他社での営業経験を持つ営業マンであれば、これまでの自分のやり方にこだわり、自分の営業手法を変えることに抵抗を持つこともあるだろう。取締役セールスアウトソーシング事業本部長の伊藤勝成さんは語る。
「セレブリックスでは、今までのやり方をすべて否定して新しいものを植えつけるようなことはしません。しかし、いったんそれらを脇に置いて、新しいやり方を試してみましょうという話はしますね」
櫻井社長も「業績がすべてオープンになっているので、いくら過去のやり方にこだわりを持っていても、結果に繋がらなければやり方を変えざるをえなくなります」と言う。
チームはセレブリックス社員と出向者の混成で、2、3カ月単位のプロジェクトごとに編成。自然にお互いの経験や営業手法を共有しながら切磋琢磨することになる。「チームには、金融出身の、営業未経験の人もいましたが、早速受注を取ってきて驚きました」と久保井さんは話す。「私は最初の2カ月間で取れた受注は1件。そんなに多くはありません。与えられた商材を限られた期間で売る力がないことを痛感しました」。
伊藤本部長によると「出向社員だからといって、差別も区別もしない」。しかし、心のケアには気を配る。
「資本関係がない企業に出向するのは日本では一般的ではないため、ショックを受けたり、不安を抱えたりすることもある。うちでは、『これは営業スキルを磨く最大のチャンス。普段の3年分くらいの経験が積める』と話して励ましています」
扱う商材はさまざまだ。久保井さんの場合は、最初の2カ月は美容院向けのCRM(顧客関係管理)システムの販売を担当し、現在はPOS(販売時点管理)システムを飲食業や小売業に販売している。
出向中も、頻繁に久保井さんに会っているという出向元の金子社長は話す。
「知名度が低い商品や、機能について認知度が低い商品を扱ってみて、『自分は今まで、とても売りやすい商品を売っていたのではないか』という気づきがあったようですね」