通信環境が整備されてもチームや職場の一体感が失われる
一方で成果を求められる中で、自分がこの会社に存在する意味があるのかという根源的な疑問も頭をもたげ、考えた末に退職してしまうケースも多かったという。
通信環境がどんなに整備されてもチームや職場の一体感が失われてしまう。在宅勤務にはそんなリスクも隠されているのだ。
ただ、とはいえ、今回のコロナ対策を契機に在宅勤務は広がっていくことになるだろう。
会社にとって最大のメリットは「管理職の資質・能力」や「社員の評価」が労働時間の長さではなく、成果という数字によって可視化されるからだ。
数年前から在宅勤務および、コアタイムのないフレックスタイムを推奨しているIT企業の人事部長はこう語る。
「従来は朝早く出社して仕事の準備をしている社員を管理職は『彼は真面目で偉い、それに比べて始業時間ギリギリに駆け込んできたあいつはダメだ』と勝手に評価したつもりになっていました。しかし本当に測るべきなのは成果です。だからこそ会社としては社員を時間と場所から解放し、自律的な働き方を推進しているのです」
コロナ不況で「ダメ上司&社員」が降格・降給される日
この人事部長は、在宅勤務も含めた「働き方の変化」でより重要視されるようになるのは、やはり管理職の能力と社員の成果だと言い切る。
「在宅勤務になると多くの管理職は目の前にいる部下がいなくなることに苦慮します。メンバー一人ひとりとどのようにコミュニケーションを取り、明確な仕事の指示ができるのか、そして課全体のパフォーマンスを達成できるかが問われます。マネジメントスタイルががらりと変わる中で独自のスタイルを築くことができず、チームの成績が落ちれば、管理職不適格者と見なされても仕方ないですし、降格することになるでしょう」
同社ではすでに降格された管理職も少なくない。ある部署ではこの2年間で実に10人の管理職が入れ替わっているという。
また、このIT企業では賃金制度も年功的制度を廃止し、役割と成果に基づく年俸制に変えている。
その結果、年齢に関係なく年俸が毎年増減するようになった。同社の社員は通常勤務と同じように成果を出さなければ給与が減るという緊張感の中で仕事をしている。
離れて働くからこそわかる「本当の実力」で「昇進・降格」「昇給・減給」するような仕組みの導入はコロナ対策の在宅勤務でも加速していく可能性がある。
現在、感染拡大が事業活動にも深刻な影響を与えている。
東京商工リサーチの調査(3月19日)によると、新型コロナウィルスの影響を受けているとした422社の上場企業のうち151社(35.7%)が売上高や利益の減少など業績悪化を挙げている。
すでに“コロナ不況”の足音も聞こえ始めている。不況になれば、当然、リストラに踏み切る企業も出てくるだろう。在宅勤務によってあぶりだされた「社員をマネージできない管理職」と「自己管理できずに成果を出せない社員」が、そのターゲットになるかもしれない。