人気マンガ「昔とココが違う」2:雑誌ブランドの弱体化

ネット発の知名度の低い作者でも作品に力があればSNSでブランド化

今どき人気マンガの潮流のもうひとつの変化は、「雑誌のブランド力の弱体化だ」と東西さんはいう。これまで歴史ある紙媒体のマンガ雑誌では、読者の意向を把握している編集者とタッグを組み、作品のプロットやネーム(セリフ)を練り、一流の作家として育てながら売り出すスタイルが主流だった。だが、その方式が必ずしも成り立つとは限らなくなってきているという。

その反面、今、紙媒体以上に勢いのあるネット発のマンガの特徴は、男女、年齢などのセグメントによって読者をあえて絞り込むことをしないことだ。いわばフリースタイルで、作者の思いをマンガ化する。その作者個人の思い入れや偏りが支持されると、SNSなどの口コミの力で作品や作家が「ブランド化」することも増えてきた。

「作者の知名度が低くても、作品に力があればうわさが噂を呼んで読者が増えていくパターンが生まれているんです。電書の読者は、自分にとってピンとくる作品を探していますから、その作品が少年マンガなのか少女マンガなのかほとんど気にしていないんです」

トランスジェンダーの作者が描くトランスジェンダーの物語

あらゆる作品が手近に読めるネットでは、紙媒体しかなかった時代のような少年誌・少女誌という棲み分けは必要がないわけだ。

「男女問わず、作品の世界に入っていけるような“入り口”を作ることは必然的な流れだったと思います。この傾向って紙の雑誌でも進んでいて、少年マンガ誌に作品を発表する女性マンガ家も今では大勢います。そのため、昔と違って主人公の気持ちや考えを繊細に描くスタイルが増えているのですが、それらは少女マンガが得意としてきた手法です」

青年マンガ誌『ヤングマガジン』(講談社)で連載中の「ボーイズ・ラン・ザ・ライオット」は、自分の性に悩む主人公がファッション業界で活躍する姿を描き注目を集めているが、作者自身がトランスジェンダーであるだけに真実味があるのだ。これまでは扱いづらかった深刻なテーマを、エンターテインメントとして面白く読ませ、同時に考えさせる。

学慶人「ボーイズ・ラン・ザ・ライオット」(ヤングマガジン公式サイト)

東西さんは言う。

「マンガを通して社会の先端に触れているんです。読まない人との価値観のギャップも生じてくるでしょうね」

マンガは今、ビジネスパーソンを含む大人が読むべき社会派メディアになったと言えるかもしれない。