安倍首相は、招待者の募集、推薦、招待という一連のプロセスの最後の、推薦者を内閣府や内閣官房が取りまとめて招待状を送るプロセスに限定して、それに「関与していない」と答えているだけなんです。

その後、野党側が入手した文書によって、安倍事務所が後援会関係者を幅広く募っていたという事実が否定できなくなり、安倍首相も認めるに至ります。

けれども当初は、安倍事務所が後援会関係者を幅広く募っていた事実を隠し、あたかも募集には関与していないかのような印象をもたせる答弁を行っていたんです。

「ご飯論法」が明らかにした答弁の不誠実さ

——「ご飯論法」の典型例ということですね。

そうですね。安倍首相は2020年1月の衆院予算委員会で「私は幅広く募っているという認識でした。募集しているという認識ではなかった」と答え、話題になりましたね。これは「ご飯論法」の失敗例になりましたね。

——「ご飯論法」という言葉が誕生した経緯を教えてください。

「働き方改革関連法案」が争点になった2018年の通常国会で、加藤勝信厚労相が意図的に質問の論点をずらした答弁を続けていた問題に気づいてほしくて、それを朝ごはんをめぐるやり取りにたとえてツイートしました。

1日で1000を超えてリツイートされました。これを見てブロガーの紙屋高雪さんが「ご飯論法」と名付けたことでさらに拡散されました。

出典:2018年5月6日、上西充子教授のツイート。

「朝ごはんは食べましたか?」と聞かれているのに、「ご飯(白米)」を食べたのかを問われていると勝手に論点をずらし、「ご飯は食べませんでした」と答える。朝食を抜いたのかと思いきや、実際はパンを食べていた、にもかかわらず……。

上西充子教授(写真=菅原雄太)

パンを食べていたというのが、明らかにしたくない不都合な事実にあたります。「朝ごはん食べましたか?」と聞かれて「何も食べていない」と答えれば虚偽答弁になってしまいますから、そうは絶対に答えません。けれども、パンを食べたことは隠し続けるわけです。詭弁きべん以外の何ものでもありませんが、安倍政権はこの論法を国会で多用してきました。

一見すると語り口は丁寧で誠実な答弁ですが、実際は、質問に正面からは答えていません。答弁を注意深く見てみると、随所に論点ずらしやはぐらかしがあります。

政権が野党から追及されると、ご飯論法が現れます。政権側と野党の議論はかみ合わず、質問時間だけが空費される。そんな国会審議が延々と続いているのが現状です。

「図形の証明問題の補助線みたいなもの」

——2018年の新語・流行語大賞にもノミネートされましたね。

私自身はご飯論法という言葉だけが広まることにあまり意味はないと思っています。言葉だけが広がるのは、レッテル張りと同じですよね。

ご飯論法は、図形の証明問題の補助線みたいなものだと思っています。補助線を引くことによって見えてくるものがある。私はこの言葉を通じて、「パン」を見てほしい。隠された不都合な事実をしっかり見てほしい。ご飯論法は、そのためのツールです。