日本の道徳授業は、子どもたちに何を獲得させたいのか
フランスでストの日々を粛々と乗り切る人々を作ってきたのは、学校での道徳教育。それに携わる行政と教育関係者の強い意志と熱意は、フランスの社会・文化を題材に発信を続けてきた筆者にも、改めて発見だった。
そしてこの記事を送る日本でも、2018年、学校教育における道徳授業に大きな変化があった。「特別な教科 道徳」として、小学校と中学校で教科化されたことは、読者の記憶にも新しいだろう。
その目的や内容は、文科省が公開している教育指導要領と解説書に詳細に説明され、文科省のサイトで誰でも閲覧できる。指導要領の「道徳」のパートは全8ページ分、解説は170ページある。
筆者も、これを機会に参照してみた。当然ではあるが、フランスのそれとは大きな違いがあり、その相違点は興味深いものだった。ぜひ読者の皆さまにもご自身で参照していただきたいが、筆者の印象に残った点を3点、挙げよう。
(1)日本の国について学ぶ項目で、「伝統」「文化」「郷土」「生活」「国を愛する態度」などに力が入れられているが、日本国の「理念」「制度」「権利」「義務」など、国の仕組みに関する記載が少ない。
(2)フランスの道徳授業にはなかった、家族愛を学ばせる項目がある。
(3)数値などによる評価を行わない。指導要領の解説は、その理由をこう説明している。
「道徳科において養うべき道徳性は、児童の人格全体に関わるものであり、数値などによって不用意に評価してはならない」
筆者は教育学の専門家ではなく、ここで両国の道徳教育を比較する意図はない。義務教育は国民教育であり、中でも道徳は「その国にとって、望ましい国民のあり方」を規定するものだから、国によって異なるのは当然のことだ。
フランスのそれは、あらゆる出自の人々が「共和国の市民」となり、共存するための知識と能力の獲得を、明確な狙いとしていた。では日本はどうだろう。子どもたちに何を獲得させることを狙いに、道徳の授業が考えられているのだろうか。
小学生・中学生のお子さんがいるご家庭が、今回の記事をきっかけに、学校の道徳授業についてご興味をお持ちいただけたら、うれしく思う。