クラスの雰囲気作りも「道徳の授業」といえる
「道徳の授業はとても重要。実際、週1時間では、足りないと感じますね」
そう語るのは、パリ郊外の小学校で5年生を担任するマルレーヌ・アントニオ先生。道徳授業の目的を尋ねると、国家教育省トップのジェフレイ氏と同じ内容を、別の表現で答えた。
「子どもたちがいつか、市民として独り立ちできるように。一人一人異なる全員が、『私はここにいる』と言いながら、みんなと共にいられることです。学校も、毎日の授業も、そのためにあるんですから」
それに、とアントニオ先生は続ける。
「道徳の授業の成果は、クラスの雰囲気に出るんです。だから私は逆に、クラスの雰囲気作りも、道徳の授業の一環として考えています」
たとえば新学期のはじめ、アントニオ先生は『クラスのルール』を紙に書き、教室に張り出す。そのルールは道徳の学習目標に呼応するものだ。発言の際は手を挙げる。他者の発言を遮らず、最後まで聞く。怒りを暴力にしてぶつけない……そしてクラスでいさかいや問題があったときには、その紙を示して生徒たちに読ませる。
「私個人の意見ではない。この場みんなのルールなのだ、と確認します。書いて貼るのが大事なんです」
クラスに「問題箱」と「いいこと箱」を設置
また今年は新たな試みとして、道徳の時間にダンボールで二つの箱を作り、設置した。一つは「問題箱」、もう一つは「いいこと箱」。生徒間だけで解決できない、みんなで話し合う必要があると考える問題と、みんなで分かち合いたいいいニュースを、匿名で入れられる箱だ。
「設置してすぐ、問題箱の方に10枚くらい紙が入っていたんです。うわ、こんなにあるのか……と驚いたんですが、3日経ったら、その紙が3通に減っていた。それをクラスで話したら、放課後に数人が私のところに来て言ったんです。『紙に書いて入れてみたら、本当にクラスみんなに言いたいことかな、って思って。それでもう一回本人同士で話したら、解決できちゃったの。だから紙を抜き取りました』って」
これがまさに、道徳の学びなんですよ! と、先生は誇らしげだ。
「いいこと箱の方にも数枚入っていましたね。クラスには問題だけじゃない。いいニュースをシェアする楽しさも必要と思っています」