トップアスリートほど決断力に満ちている。長くスポーツ医療に関わってきて、つくづくそう感じる。
自分が信じてもらえる存在にならなければいけない
「闘莉王のケガが治り切らず、まだ90分間プレーするのは危ないと止めたことがあります。すると彼は『大丈夫、先生の責任じゃないから』と振り切って出場。ディフェンダーなのに前半で2ゴールを決め3-0として、ハーフタイムに自ら交代しました。『先生これでいいでしょう?』と笑っていましたよ」
仁賀は、チームスポーツのプロ選手を診るときは、必ずトレーナー、可能ならドクターにも同行してもらう。
「僕の目標は、ここで選手を治すことじゃない。それぞれの地域、チームで治し予防できるようになること。さらにはその競技全体へ浸透していくのを目指しているんです」
仁賀は8年間レッズの専任ドクターを務め、選手たちと寝食を共に過ごした。うまくいかないこともあったが、信じて復帰を目指す選手たちには、逆に何度も救われる思いもした。
「選手を救うためにも、自分が信じてもらえる存在にならなければいけない」
東京五輪では仁賀が治療し復帰した何人もの選手たちが躍動するはずだ。だが厳しい勝負の世界を目の当たりにしてきただけに、結果を出すことの難しさも知悉している。
「とにかく選手たちが無事に自分の力を出し切ってほしい」
仁賀は、それだけを願っている。