ブラック企業でも辞めないのは、低い報酬だから
類似の実験は課題を変えて何度も再現性が確認されていますが、報酬額や仕事の内容によらず、低い報酬を約束された人は高い報酬の人よりも常に頑張ってしまい、課題の成績も良く、しかも圧倒的に楽しいと感じているという傾向が見られます。
この心理が、ブラック企業に利用されているのかもしれません。酷使されても辞めないケースの中には、低い報酬だからという要因も考えられます。
私自身も疑問に思い、日本テレビ系列の番組『世界一受けたい授業』の制作スタッフに同様の実験をしてもらいました(2018年5月5日放送)。すると、やはり報酬額の少ないほうがその課題を楽しく感じる、という結果に変わりはありませんでした。
人にやる気を起こさせようとするとき、多額の報酬を与えることはほとんど意味がないということがこれでわかります。短期的には馬力を出すための励みになるかもしれませんが、長期的に見ればかえって仕事に対する意欲を失わせる原因になってしまう可能性があります。
人をやる気にさせるのに効果的なのは、その仕事自体が「やりがい」があり、素晴らしいものだとくり返し伝え続けることと、「『思いがけない』『小さな』プレゼント」です。予測される報酬ではなく気まぐれに与えられること、しかも少額であることが重要です。多額のものでは、せっかく醸成されたその人のやる気が失われてしまいかねません。
人は「承認欲求を満たす言葉」でやる気が出る
もともと仕事の内容が嫌なものであることが明らかな場合には、現実的な額の報酬を与え、その後、「あなたのような人でなければできない仕事です」などの心理的報酬、つまり承認欲求を満たす言葉を上手に使っていくのが効果的です。
逆を言えば今、給料は少ないし休みもないけれどやりがいがある、という状態にあるとの自覚を持っている人は、一度自分の状態が客観的に見てどうなのかを振り返ってみることが必要かもしれません。
しかし、「報酬を目当てにみんな仕事をしているし、昇給すればうれしいし、言葉よりも具体的な金額として自分の努力が認められるのは幸せなことじゃないか」と、多くの人は反論したくなるだろうと思います。たしかに、ある種の課題では、外的動機づけと呼ばれるわかりやすい報酬が生産性を上げるのに功を奏することがわかっています。
それでは、報酬を与えるのはどんな課題のときがよく、どんな課題のときには報酬を与えてはいけないのでしょうか?