劣悪な待遇で働かされる「ブラック企業」が成り立ってしまうのはなぜか。脳科学者の中野信子氏は、「人の脳は“嫌なことの見返りとして報酬がある”と刷り込まれている。そのため、報酬そのものの存在がタスクを嫌なこととして認知させてしまう」という——。

※本稿は、中野信子『空気を読む脳』(講談社+α新書)の一部を抜粋、見出しなど再編集したものです。

仕事の山を前にため息をつくビジネスパーソン
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素晴らしいごほうびのある実験

子どもにやる気を出させたいとき、部下に自発的に頑張ってほしいとき、自身を鼓舞したいとき等々、自分も含めて誰かのモチベーションを上げたい、という場面には頻繁に遭遇します。

多くの人はそんなとき、目に見える報酬を用意して、モチベーションアップにつなげようとするのではないでしょうか?

たとえば、子どもには「成績が上がれば欲しいものを買ってあげよう」と伝えてみたり、部下には昇給や昇進を約束したり、自分自身にも「自分へのごほうび」を期して何ごとかを頑張ろうとしたりする、などです。

しかし、この方法は本当に良い方法と言えるのでしょうか?

この問題について、実験的に分析した人たちがいます。スタンフォード大学の心理学者レッパーの研究グループです。

実験は、子どもたちに絵を好きになってもらうにはどうしたらよいか、というテーマのもとに立案されました。子どもたちをふたつのグループに分け、片方のグループには「良く描けた絵には素晴らしい金メダルが与えられる」ということを前もって知らせておきます。もう一方のグループには、メダルが与えられるという話は一切しないでおきます。