結束の強い社会ではフリーライダー叩きが激しい
肉体の脆弱性と子育て期間の異様な長さのために、集団で生き延びることが種の保存に必須であるために社会性が大きく発達した生物である人類には、フリーライダーの検出機能と排除の機構がほかの生物よりずっと強力に組み込まれているのです。
集団内におけるフリーライダーを検出する心理モジュール(構成部品)として、やっかいなことですが「妬み」の感情が使われていると考えることができます。
不倫をする有名人は、「一夫一婦制」という共同体のルールを守らず、ごく個人的な快楽を貪っている……つまり、「コストを払わずにおいしい思いをしている」ように外野からは見えるのでしょう。
それが集団内のほかの人の「フリーライダー検出モジュール」に火をつけてしまうのです。
ところで、愛情ホルモンとして知られる「オキシトシン」という脳内ホルモンは近しい人との愛着を強め、集団の結束を高める働きがあります。日本人は地理的環境のせいか、世界的に見ると集団があまり流動的でなく、集団の結束を個人の意思より優先することを美徳とする傾向があります。
愛情ホルモンは一見、素晴らしいもののようなのですが、妬みの感情をも同時に高めてしまうという性質も持っています。つまり、集団の結束が強い社会では、人々はフリーライダーのバッシングに熱心になりやすくなるのです。
とりわけここ10年来、大規模な災害が相次いだことで日本社会は「絆」――集団の結束をより重視する社会に比較的シフトしています。大きな災害や戦闘行為など、私たち人間は集団の結束を必要とする事態にしばしば見舞われますが、集団がそうした状態にあるとき、フリーライダーにはより厳しい視線が向けられます。
不倫バッシングをする人は社会性が高い?
利己的な振る舞いをしている人がいると、いつも以上にバッシングされやすくなる――その格好の対象のひとつが「不倫」です。
ようするに、バッシングすることそのものがエンターテインメントとして機能する素地が、集団の結束を強める外的要因によって整えられる、ということになるでしょう。
ただし、バッシングにもコストがかかります。たとえばバッシングしたり抗議の電話をかけたりするのには、それなりに労力も時間も必要です。また、相手によっては名誉棄損だと訴えられてしまう場合もありますし、リベンジされるリスクもあります。
ですが、不倫バッシングを「楽しむ」側にとっては、そのコストを支払ってでも、バッシングによって得られる快感——相手がみじめな姿をさらすことでほっとしたり、胸のすくような思いをしたりする——を手放せないわけです。
また、不倫バッシングは、自分が「正義」の側にいることを確認する行為でもあります。これにより、脳はさらなる報酬を得ることができるのです。
このように書くとバッシングをする人を責めているように見えるかもしれませんが、この人たちは社会性の高いきわめて人間らしい人たちとも言えるのです。補足すると、社会のルールを守る誠実で善良な人ほど、逸脱者への攻撃に熱心になる傾向があることが、複数の研究で報告されています。