「不倫が悪いのは常識」と言い切っていいのか

一夫多妻は今でもイスラム圏では認められていますし、乱婚が残っている社会も多く見られます。どの婚姻形態が繁殖適応的であるかは環境条件に左右されます。

一夫多妻、多夫一妻、一夫一妻など、ある地域に生きる集団にとってそれが繁殖に最も適応的な婚姻形態だったから、そこでスタンダードになったということにすぎません。

いずれにせよ、私たちが「倫理的」ととらえているものは人類の長い歴史の中で見れば自明のものではないのです。ごく最近形成されたものかもしれず、「不倫や乱婚=悪」といった考えも、一夫一婦制が定着したのちにあとづけで広まった概念だと疑ってみるべきでしょう。

こうした背景を知ると、著名人の不倫で大騒ぎしたり、その人の全人格を否定してみたくなったりする人間の存在を振り返ってみたとき、時間をかけてそんなことをするのがなんだか滑稽に見えてくるのではないでしょうか。

2人に1人は不倫しやすい遺伝子を持っている

実は最新の研究によって、ある特定の遺伝子の特殊な変異体を持つ人は、それを持たない人に比べて、不倫率や離婚率、未婚率が高いことがわかってきました。

その遺伝子を持つ人は、性的な行動だけでなく一般的な行動においても違いがあり、たとえば「他者に対する親切な行動」の頻度が低いこともわかっています。これが「不倫遺伝子」の正体ではないか、とも言われています。

それらは気の遠くなるような進化をくぐり抜けてきている一方で、私たちの倫理的価値観は、宗教的観念の発達によって、わずか数百年のうちに急激に変化したものにすぎません。

人口のおよそ50%はこの「不倫遺伝子」を持っているとの報告もあります。なんと、2人に1人は不倫型というわけです。生まれつき「一夫一婦制の結婚には向かない人」がいる、ということを、ぞっとするような思いでとらえる人もいるかもしれません。

ただ、少なくとも、「夫の浮気の原因は妻の性格や振る舞いにある」などと無神経に断罪するよりは、かえって気が楽になる人もいるのではないかと想像したりもします。

このように、ある人物の振る舞いが一夫一婦制に合致するかどうかは、本人の意志や努力という要素よりも、遺伝子や脳の仕組みによって決まっている部分が大いにあるのです。