「ダメな男」はなぜモテるのか
もうひとつ不思議なのは、人を騙したり、あちこちに借金を抱えていたり、トンデモないウソつきだったりするダメ男が、なぜか絶世の美女を次々にものにしていたりすることです。それに類する事件は多くの週刊誌などでこれまで取り上げられてきていますが……これは一体なぜなのでしょう?
『サイコパス』(文春新書)の中でも解説していますが、女性は、サイコパス、マキャベリスト、ナルシストの3要素を持っている男性に惹かれやすいことがわかっています。この3要素はダーク・トライアドと呼ばれます。まさに典型的なダメ男、といったところでしょうか。
ただ、ダーク・トライアドの男性は、「新奇探索性(リスクを冒してでも新しいものごとに挑む性質)」が高く、性的にもアクティブなので、遺伝子を広く拡散する性質があります。
つまり女性にとって、ダーク・トライアドの男性と子孫を残し、そこに半分、自分の遺伝子を乗っけてしまえば、その子孫も同じようにあちこちで遺伝子をばらまいてくれる可能性があり、効率よく自分(女性)の遺伝子も次世代につないでくれる確率が上がる、というわけです。
でも、一方ではダーク・トライアドの男性と関係を持つと、恋愛関係や結婚生活そのものは破綻しやすく、面倒なことにもなりかねません。また、不倫と呼ばれる関係にもなってしまいやすく、世間からバッシングされるリスクも高くなります。
理性よりも強い力が「ダメな男」を求めている
それでも、これが抑止力にならないのは、理性よりも強い意思決定の機構が脳に存在するからです。
ダーク・トライアドの魅力に抗えないのは、脳の中の古い皮質が私たちに指令を出しているからです。つまり個体として安定した日常生活を送るよりも「遺伝子を効率よく残したい」という、より根源的な欲求が優先されるというわけです。一方、「不倫がバレると社会から罰せられるから、やめておこう」という考えは、理性を司る新しい皮質による判断です。
新しい皮質はアルコールやストレスなどで麻痺しやすく、いわば、タガが外れやすい。「酔った勢いで、つい」といった一夜のあやまちが起きやすいのはそのためです。
こうした視点から見てみると、私たちは脳や遺伝子に踊らされて不倫をしたりバッシングをしたりしている、ということにもなるわけです。
人類は、母親が子育てにかけるコスト(時間、労力)が非常に大きい生物種です。子どもを産むと、数年間は子育てに多くのリソース(資産)を割かなければなりません。誤解を恐れずに言えば、その間、オスが自分の遺伝子を残せる別のメスを求めて外に出るのは、個体数の増加という観点から見ると、効率的な試みです。
私たちの脳や遺伝子は今でもその仕組みを残しています。
一夫一婦制が定着したのは、農耕が始まって規模の大きい集団生活を営むようになってからだというのが有力な考え方のようです。集団の規模が大きくなっても乱婚を続けていると性病が蔓延して共同体が存続しにくくなったため、一夫一婦制が定着したとの学説もあります。