「サラリーマン人生、終わらせるぞ」と言われても

「ONE JAPAN」に参加する人たちには3つのユニークネスがある。一つ目は、大企業の有志団体であること。二つ目は、ボトムアップの活動であること。最後は、個人参加ではなく必ずチームを組んで団体で活動していることだ。

山本さんいわく「大企業は経営者以外の個人では変えられない」。だからこそ、社内に有志団体をつくることが必要なのだ。そのための仕掛けが、NTTでは「O-Den」であり、パナソニックでは「One Panasonic」だった。大企業の中で硬直化した組織を変えていきたいという若手社員の活動は、歓迎されないことも多い。参加者の中には、会社の人事部から「サラリーマン人生、終わらせるぞ」と脅された者もいるという。

組織の中で一歩踏み出した若手社員の事例集であるONE JAPAN『仕事はもっと楽しくできる』(プレジデント社)。第一章に”サボリーマン”時代から仕事が激変するまでの山本さんのエピソードも収録する。

「参加者の中には、大企業への、自分への憤怒をエネルギーにしているものもいる」

山本さんは、かつての自分もそうだったと振り返る。

「でも、O-Den、そしてONE JAPANの活動によって、ちょっとずつでも変わってきた。少なくとも、前向きのことをやる人にはなれるはずです」

「ONE JAPAN」のこれまでの活動は、2018年に一冊の本にまとめられている。その中には、ONE JAPANのメンバーが会社を今より楽しく働きがいのある場所に変えていくために行った様々な事例が「ベストプラクティス」として集められた。それらを有志活動で結果を出すための手法として共有している。

集うことで、熱量が上がる。そして、続いていく

現在は年一回の開催となった「ONE JAPAN」のカンファレンスには、1000人規模の人が集まる。この総会に限っては会員である大企業以外にも門戸は開かれており、前回はスタートアップ企業などからも200人ほどが参加した。

総会は、休日の日中に始まる。全員が一堂に会することができる大会場では「大企業でイノベーションを起こすために必要なこと」「挑戦するカルチャーをつくるために個人と企業ができること」といったテーマで丸一日トークイベントが組まれている。

それとは別に「自己変革の小さな一歩の踏み出し方とは」「有志組織を立ち上げた5人だからわかる! 自分と組織を変える、はじめの一歩」といったより具体的なテーマでのセッションが行われる複数の小会場があり、参加者は会場を回遊する。

登壇者には、著名な学者や経営者、起業家、投資家などが名を連ね、有力経済団体主催のイベントかと見まがうほどだが、参加者の8割以上が係長以下の若手だ。

「参加者の大半は、30代前半です。ボトムアップで何かを実現しようとする志のある人たちが集まってくる」

いわゆる企業の研修やセミナーとの一番大きな違いは、単に知識を仕入れたり勉強したりすることを目的とした場ではないことだ。それよりも、参加者が互いに刺激を与えあって「会社を変えていくぞ、自分が実現したい未来を作るぞという参加者の熱量を上げる場だ」と、山本さんは言う。

そして、その上がった熱量を、それぞれが会社に戻ってからも維持するためには、社内に仲間が必要だ。

「大企業から挑戦の文化を作るには、長い年月がかかります」

学生時代の熱量が残っている新入社員や若手社員を巻き込んで、「熱量がなくなる前に熱量を高め続けたい」、そして「空気を作っていきたい」という山本さんたち若手中堅社員有志のチャレンジは、これからも続いていく。

山本将裕
NTT東日本/ONE JAPAN共同発起人・代表
1987年東京生まれ。2010年NTT東日本に入社。翌年、宮城県石巻支店で東日本大震災を経験。その後、仙台で法人営業にて高齢者向けIoT見守り事業に従事。2014年より本社ビジネス開発本部へ異動。2015年、NTTグループを横断する有志組織「O‐Den」を立ち上げる。2016年大企業中堅若手有志団体「ONE JAPAN」共同発起人となる。2016年経産省のイノベーター育成プログラム「始動」2期生。2017年よりNTT東日本アクセラレータープログラムの立ち上げ、数々のベンチャー企業との協業による新規事業創出を手掛けている。
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