「ママ、今イライラしてるから話しかけないでね」

常に楽しむことに主眼を置いていたせいか、中学受験につきものの親子ゲンカは皆無だったという。もともと母親は子供に対して感情的にならないように心がけている。

もちろん、イライラしてしまうときはある。しかし、こうしたほうがいいんじゃないのかな、といったアドバイスはするが、声を荒らげて怒ったことはないという。

どうしても感情的になってしまいそうなときは、「ママ、今イライラしているから話しかけないでね」とSくんにはっきりと伝えていた。それでもしつこくSくんが話しかけてくるときは、クールダウンのためにいったん部屋を離れるなどしていたそうだ。

頭ごなしに怒っても子供の心には届かない。

子供が納得しているかどうかは大きく、親が一方的に押し付けても無駄だと母親は話す。最終的に見守るしか方法はないと考えているからこそ、感情的にならずに済んだのだろう。

模試で目標をクリアしたら1教科1000円! 料金交渉にも応じる

Sくんのモチベーションを上げるために、模試では成績目標を設定し、クリアしたときはご褒美をあげた。最初は「お肉券」や「大トロ券」など、Sくんの好物を夕飯で出すことから始まり、そのうち欲しいゲームをねだられるようになったという。大好きなゲームがもらえるとなるとがぜん、やる気が出るようで、Sくんは高い成績目標を次々にクリアしていった。

5年生の途中からは目標を1教科クリアするごとに1000円という賞金を設定し、茶封筒に入れ、達成した順位などを書き込んで渡した。当時、毎月定額の小遣い制ではなく、ゴミ捨て1回300円といったお駄賃制だったSくんにとって、4教科目標をクリアすれば4000円という賞金は大いに魅力的だっただろう。6年生からはSくんから「勉強が大変になるから」という理由で値上げ要求があり、親子で相談した結果、1教科2000円で“妥結”した。

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ただ、父親は賞金を勝手に使ってはいけないとも伝えていた。事前に使用方法を説明してOKがもらえたら、というルールで浪費を防止したのだ。

Sくんが幼い頃から、父親は意識してマネー教育を施してきたという。たとえば、空港のビジネスラウンジに連れていったり、ご褒美のお肉券で通常は買わないような高級な牛肉を購入したりして、良いものは高価であり、その高価なものを購入するためにはそれなりの収入が必要、といった社会の仕組みをかみ砕いて説明をしてきた。

Sくんが苦労して貯めたお駄賃を、あえて祭りの出店で散財させてみたこともある。何日もかけて貯めたものが1日でなくなってしまったことに驚いたSくんは「お金は必要なときのために貯めておかなきゃ」という意識を持つようになったという。