「目標と実績がズレるからいいんだ」
こう言うと次のような質問も出てくる。
「これだけ変化が激しく、業界外からも突然ライバルが参入してくる時代にあって、長期計画は当たらないし、作る意味自体がないのでは?」
「ウチは中小企業だからシェア自体もよくわからないし、そんな分析ができる社員もいないから……」
「銀行さんを招いて発表した以上、全然達成できなかったらカッコ悪いし、かえって評価が下がるんじゃないの?」
そんな相手に対する一倉先生の答えは、「やりもしないで、やらない理由、言い訳、自分のメンツを守るとは何事だ!!!!」
さらに続けて、「そもそも計画は、特に短期計画は目標を下方修正したり変更して一致させようとすること自体が根本的に間違っている。目標と実績がズレるからいいんだ」と。
「そのズレの原因は、社長の先見力・計画立案の甘さか、実行力・行動力不足かの原因究明を毎月繰り返し考え、手を打ち続け、翌期に目標精度を徐々に上げていけばいい」というのが、それが一倉先生の考えである。
数字を盛って社員を奮起させるのは怠慢だ
一倉式の「経営計画書」の売上利益計画は、この数字を達成した12か月後、期末のバランスシート計画が事前の目標数値で作成され、セットで発表されるのである。そのためには税金支払い、借入金の返済、設備投資計画とそこから上がる減価償却費、新規の借入、さらに運転資金の増減、在庫の目標数値まで計画を立てるのだ。
実際に発表するのは通常1計画であるが、名古屋の優良企業K社の発表会では、好調、横ばい、景気後退の3通りの経営環境下での目標PLと目標BSが計画書にファイルされており、金融機関からの評価は絶大である。
単年度の売上利益計画を相当に盛った数字で作って、全社員にプレッシャーをかける社長が時々いる。聞けば、これくらい大きな目標にしておかないと数字が伸びないからと言われるが、この考え方も一方向からしか経営計画を考えていないこととなってしまう。
数字を盛って社員の奮起を促していては、経営目標で一番大切にしなければいけないBSの作り込みを考えていないということであり、「現状のROA◯◯%を将来どこまで上げていくか?」という社長の意思は全く見られないのだ。
中堅・中小企業の社長は、赤字が続いたとしてもオーナーである以上、引責辞任などできない。また好調が続いていても好不調の波は必ず再度襲ってくる。
だからこそ利益を確実に出し、資金を潤沢にしておかなければならないし、いざとなったら誰も助けてはくれない。一倉先生が、利益のことを「事業継続経費」という所以である。
しかしながら、経営計画書の方針書を書くことが苦手、ましてや数字はもっと苦手という場合、よくエクセルのソフトで作成できるといって手を出す社長がいらっしゃるが絶対にやめたほうがいい。
カタチは何となくできているので、できた気にはなるが肝心要の資金運用というお金の使い方が腹落ちしていないから、好調なときに墓穴を掘ってしまうからである。