突っ張り棒製造3代目が起こした商品づくりの実験

この課題に示唆を与えるのが、大阪で「第二創業」を果たした平安伸銅工業です。同社の商品はドイツのiFデザインアワード2018やグッドデザイン賞など数々の賞を受賞し、注目を浴びています。

創業は1952年。主な製造商品は「突っ張り棒」です。ピンとこない方もいるかもしれませんが、たとえば洗面所で、左右の壁と壁の間に水平に渡され、そこにタオルや洗濯物をかけたりする、あの棒のことです。以前から、平安伸銅工業は突っ張り棒のトップメーカーではありました。自社ブランドの商品を製造するだけでなく、ホームセンターのOEM生産も手掛けています。しかし、用途が限られ、かつ中国メーカーの台頭や100円ショップの拡大などで、2000年代に入ると業績は頭打ちになっていました。

そんな同社に2010年に入社したのが3代目の竹内香予子社長です。もともと新聞記者として活躍していたのですが、お父さんの発病を機に家業を継ぐことになります。入社した彼女は、堅調に見えた業績が下降線をたどっていることに気づいたといいます。競合が増え、商品がコモデティ化したことが原因でした。

焦った竹内氏は、まずは自社の中で新製品のアイデアを求めます。社員を集め、消費者目線で新製品のアイデアを出してもらおうと、開発会議を開くようになります。しかし、出てくるアイデアは既存商品の延長線上にある改良品ばかり。やがて竹内氏も「改善と革新は違うのだ」ということに気づきます。

「自社のエンジニアが得意なのは、いまある商品を改善してコストを下げること。本当に新しい商品をつくるには、外部のプロの力が必要だと考えました」

そこで竹内氏は「そのプロとはプロダクトデザイナーの人々ではないか」と思い至り、コラボレーションを検討しだします。まさにオープンイノベーションの視点です。

しかし、ここまでなら普通のオープンイノベーションの話と変わりません。ここで竹内氏が興味深いのは、外部のプロダクトデザイナーのコラボ方法に多様性を持たせたことなのです。具体的には、3つのパターンを考え、それぞれを同時並行で3つの新製品開発プロジェクトを行います。それは以下の3つです。

【パターン1】外部のプロダクトデザイナーと直接コラボ。
【パターン2】自社でデザイナーを採用し、内部で開発。
【パターン3】自社メディアの読者からアイデアを募集し、そのアイデアをもとに外部のデザイナーに委託。