②妻に先立たれたBさん・73歳
Bさんは、定年後、専業主婦の奥さんと二人で暮らしていましたが、3年前に奥さんが他界。家のことはすべて妻任せだったので、料理や掃除、洗濯などの家事が一切できません。ゴミの分別や出し方もよくわからず、いつの間にか部屋にコンビニ弁当の空き容器や総菜のトレーがあふれています。Bさんは寂しさからか野良猫に餌をあげ始めたことがきっかけで、猫が何匹も家の中にいる多頭飼育の状態で、ゴキブリやネズミで家が不衛生になっています。

③老親の介護で離職したCさん・54歳
Cさんは、長年部品工場で正社員として働いていましたが、5年前に両親の介護が必要になり仕事を辞め介護に専念。3年前に二人を相次いで見送りました。両親が存命の時には年金で生活を共にできましたが、両親が亡くなった後の生活で預貯金を使い果たし、就職活動もうまくいかずイライラが募り、毎日昼間から酒を飲む生活になりました。風呂にも入らず、着替えもせずに、一日のほとんどを家の中で過ごしていました。栄養状態が悪いうえに、記録的な猛暑の中、冷房が壊れたままの部屋で孤立死をしているCさんが、異臭がすると気づいた近所の人の通報から発見されたのは2週間後でした。

④うつで家事ができないD子さん・32歳
D子さんは小学生の娘と二人暮らし。夫とは離婚し、シングルマザーとして娘を育てていましたが、派遣社員として勤務していた会社で上司とトラブルになり、うつ病を発症しました。その後会社を辞め、家に閉じこもる生活になりましたが、家にいると家事も子育ても何もする気が起こらず、娘の食事も作ることができません。娘がコンビニやスーパーで菓子パンや弁当を買ってきて、それを一緒に食べるという生活が続いています。家の中はゴミ箱がなく、足の踏み場がないほど物が散乱し、娘は「汚い」「臭い」といじめられた結果、学校に行けなくなりました。

原因は、大切なものを失った「喪失感」

家族を病気や事故で失った人、災害により家を失った人、リストラにより仕事を失った人、友人や近隣住民とのトラブルで孤立している人、など、セルフ・ネグレクトで共通しているものを考えると、大切なものを失った「喪失感」があるかもしれません。

喪失感による心の隙間を埋めるためや、不安な気持ちを安定させるためにモノをため込んでいるのではないかと思えることがあります。

親しい人との死別の経験は最もストレスが高いことですが、他者との交流がなくなることや、親しい人から自分の存在を否定されることによって、「喪失感」を抱くことがあります。モノをため込む一方で、生活に必要な行為をしなくなることや、病気になっても受診や治療をしないこと、食事を十分にとらないことなどで孤立死に至ることがあるのです。