「個人の自由」を尊重する社会が支援を阻む

ではセルフ・ネグレクトにならないためにどうしたらよいのでしょうか。心や体の病気が原因でセルフ・ネグレクトになった人は、病院で治療を受けるか、高齢者であれば介護保険のサービスを利用することで生活が改善することがあります。

経済的に困窮している人は、行政の窓口に相談に行き、就労支援や生活保護を受けることができれば、生活を立て直すことができるかもしれません。しかし、セルフ・ネグレクトの人は助けを求めることが「できない」人や、助けを求める状態にあることに「気づかない」人なのです。

ではその人の周囲にいる人が気づいてあげて、無理やりにでも病院に連れて行ったり、ゴミを行政が撤去したりしてしまえばよいのではと思う人も多いかもしれません。しかしそこに至るには大きな困難が立ちはだかっています。それは「個人の自由」を尊重する法の壁と社会です。

あなたが愛煙家だとして、医者から「体に悪いから煙草をやめなさい」と言われてその通りにしますか? きっと「医者に禁煙を強要する権利はない」と反論するでしょう。そう、私たちは法に触れず社会や他人に迷惑をかけない限り、いかなる行為も邪魔されない権利を日本国憲法第13条によって保障されています。

つまり、精神的な病によって認知力や判断力が著しく低下している場合を除いて、何人も他人の生き方や生活に介入することはできないのです。この「自由の尊重」は、愚行権とも言い換えることができます。つまり人は、たとえ他人から愚かな行為と思われようと、公共の福祉に反しない限り誰にも邪魔されない権利があるということです。