ゴミ屋敷を生出す「セルフ・ネグレクト」

ところで皆さんは、ゴミ屋敷住人にどのようなイメージを持っていますか? 「そもそも片付けができない人」「生活がだらしない人」「周りのことを考えない自分勝手な人」など、生活のルールが守れない困った人というイメージではないでしょうか。

ところが近所の方や親族に話を聞くと、ゴミ屋敷住人は、かつてはきちんとゴミを捨てていたということも少なくないのです。また、ゴミ屋敷住人が捨てていないにしても、家族の誰かが捨てていて、ゴミ屋敷になったのは何らかの出来事がきっかけだったということも少なくないのです。

ではなぜ、ゴミを放置するようになったのでしょうか? それは彼らのほとんどが「セルフ・ネグレクト」(自己放任)という状態に陥ってしまったからです。

「日常生活に必要な行為を行わない」

セルフ・ネグレクトの特徴をひと言で言うと「日常生活に必要な行為を行わない」ことです。具体的には、洗濯をしない、風呂に入らない、病気なのに病院に行かない、食事をしないなどで、ゴミを捨てずにため込むのもその中の一つです。

セルフ・ネグレクトは具体的には、いわゆるマスコミ等で報道されている「ゴミ屋敷」や多数の動物の放し飼いによる家屋が不衛生な状態、本人の著しく不潔な状態などがあります。また家屋は不潔ではなくても、医療やサービスの繰り返しの拒否や食事をとらないということもあります。

セルフ・ネグレクトは健康に悪影響を及ぼし、水分や食事を摂取しなければ生命にかかわり、「孤立死」につながることもあります。

海外の調査では、高齢者の約9%がセルフ・ネグレクトであったという報告がありますし、特に年収が低い人、認知症、身体障がい者の場合には、15%に及ぶと報告されています。またこの調査では、セルフ・ネグレクト状態にある高齢者の1年以内の死亡リスクは、そうでない高齢者に比べ、5.82倍であったと報告されています。つまり、セルフ・ネグレクトは決して軽視できない問題なのです。

判断・認知能力の低下、落ち込み、喪失感

ではなぜ、日常生活に必要な行為を行わなくなってしまうのでしょうか。認知症や精神疾患等の病気により判断・認知能力が低下して、自分で生活に必要な行動ができなくなったり、生活する意欲が失われたりすることがあります。

また、判断・認知能力の低下はなくても、何らかのライフイベントによる気持ちの落ち込みや喪失感、人間関係のトラブルなどによる生きる意欲の低下や孤立感から、セルフ・ネグレクトに陥ってしまう場合もあります。