年間試作100回を超えた果てしなき「試飲」の日々

だが06年の冬、冒頭で触れた櫻井が最初につくった試作品を飲んだとき、そうした戦略構想が根底からくつがえる予感が生まれた。この糖類ゼロというカテゴリーは、数ある缶コーヒーブランドの中でも基幹商品になるかもしれない、と。

試飲にあたっては必ず加熱、殺菌などを施し白い缶に充填、2週間ほど保管されたもので行われる。広告チラシは、櫻井氏による熱い開発メッセージをもとに文面が作成された。

「櫻井、これはいけるぞ。絶対に売れる。とにかく味を磨け!」

ここから櫻井の奮闘が始まった。缶コーヒーの原料となるのはコーヒー豆と牛乳、そして砂糖であるが、糖類ゼロとなると、砂糖は使えず、甘味料で代替する。また牛乳にも乳糖という成分が含まれているために、脱脂粉乳と濃縮乳を使う。

だが、このままでは水っぽい味になるので、まず豆の選定をマンデリンに決め、焙煎の度合い、乳成分、甘味料の配合を変えていく。組み合わせは無数だ。それを櫻井は細かくマトリックスに落とし込み、小松のイメージに少しでも近い“解”を探す。コーヒーの味が強すぎればミルクの風味や甘味がかすむ。甘味が強すぎればすっきり感がなくなる。バランスが難しい。櫻井は語る。

「正直、戸惑いもありました。まったく新しい概念の商品なので・目標にすべき味・がありませんから。とにかく無限にある組み合わせの中から、自分なりに納得できる味をつくり、それを小松に試飲してもらっては意見を聞く。この作業を繰り返すしかないと思いました」

少しずつレシピの違う試作品を、ある程度の数つくると、小松を研究所に呼んで試飲を行う。小松は毎週のように、研究所に通い、月10本のペースで試飲を続けた。サンプルは必ず缶に充填し、消費者が飲むのと同じ条件で味を確かめていく。だが、研究所で試飲用の白い缶と対峙する瞬間は、小松にとって楽しみでもあり、辛くもあったという。

「ほかの新製品も並行して開発、既存商品の味のブラッシュアップも行っていますから、研究所に足を運ぶと、これも試飲してくれ、あれも飲んでくれと開発担当者が押し寄せてくる。ふつう試飲する場合は少量を口に含め、香りと味を確認したら吐き出すんですが、僕は全部飲んでしまう。なんかもったいないんですね。ですから、試飲の数が増えると肉体的には結構厳しいものがありました」