ミルク入りのレギュラーにブラック無糖、微糖……。開発競争に鎬を削る缶コーヒーの世界に昨年、彗星のごとく登場した「糖質ゼロ」商品は、発売後3ヶ月で販売目標を上方修正。その成功の秘密とは。
社長の一言が決めた「不可能への挑戦」
もしかすると、これはいけるのではないか――。試飲缶の中身を口に含んだとき、その男は刮目した。商品にするにはまだまだ完成度は低い。だが「商品化は到底無理」という、自分自身の思い込みは完全に間違いであったことを確信した。
男の名は小松秀児、39歳。2004年から缶コーヒーの企画・開発に携わり、08年1月からはコーヒーチームのリーダーを務める。アサヒ飲料の缶コーヒー、すべてのアイテムを管理し、新商品の開発とともに既存商品のブラッシュアップ、広告宣伝戦略なども手がける。
「糖類ゼロでおいしい缶コーヒーはできないのか?」
そもそもは就任直後の岡田正昭社長から、06年春に出された命題だった。確かに健康志向が高まる中、缶コーヒーに含まれる糖類はネックとなる。しかし缶コーヒーの主な購買層は30~40代の男性。コーヒーの風味とミルクのまろやかさ、そして適度な甘さを求めるという味の嗜好は簡単には揺るがない。
消費者のこの矛盾するニーズを1缶で満たす商品をつくれないのか、というのが岡田社長の問いかけだった。
「中途半端に糖類をカットするより、いっそゼロのほうがわかりやすいだろ?」
「もちろんそうです。糖類をゼロにすることは技術的にも可能です。でも……」
「難しいのか? どうしてだ」
「はい。味の面で」
「そうか」
岡田社長はそれ以上は言わなかった。だが小松はひそかに闘志に火をつけた。