岡田社長はしぶしぶ了解した。岡田社長のアイデアを見事に完成させた段階で、自分がこだわってきた微糖分野での新商品もあわせ技で認めさせてしまうあたり、小松のしたたかさであるといえよう。
こうして08年1月、糖類を74%カットした「ワンダ 金の微糖」を発売する。そして好調なセールスを背景に、3カ月後の4月、満を持して糖類ゼロ「ワンダ ゼロマックス」を世に出すことになった。
しかし運命というのは皮肉なもの。発売初日の販売データは芳しくなかった。
「この世界は発売初日でほとんど決まります。初日の動きがダメだとその先もダメ。正直、目の前が真っ暗になりました」
味にもコンセプトにも自信がある、何かそれ以外に原因があるに違いない。そう考えた小松は、調査データの結果を見ながら、ある決定的な仮説が閃く。
「糖類ゼロなのにミルク入りで甘味もあることが、消費者に十分伝わっていないのではないか。ブラックや微糖と勘違いする消費者が多いのではないか――」
早速、小松は宣伝制作チームの高田淳吾を促し、CMのコピーをより具体的な「ブラックでも微糖でもない」に変更、消費者への訴求を徹底させた。するとおもしろいように販売データが変化した。
結果的に「金の微糖」は初年度販売目標500万箱を1000万箱に、「ゼロマックス」は300万箱を500万箱に上方修正するヒット商品となった。岡田社長からは、小松率いるコーヒーチームに社長賞が贈られた。
だが、小松は「もう過去の話」と笑う。
「すでに次の一手の開発を進めていて、成功の余韻に浸っている暇はないんです。現在、ワンダのマーケットシェアは5位。僕がチームリーダーでいるうちに、なんとしても3位までもっていきたい。実を言うと、つくれる味は無限にあります。僕たちが発見していないおいしさがまだまだある。それをどのタイミングで、どんな打ち出し方で世に問うていくか、成功に至る道筋は無限にあるんです」
小松がそう語っている間に、櫻井は2本の白い缶を我々の前に持ってきた。
「飲んでみてください」
飲み比べてみると、確かに味が違う。一方のコーヒーのほうがより味わいが濃厚で深いように思える。この二本は何かと尋ねると、櫻井は言った。それは日々「新しい何か」を模索する姿でもあった。
「こちらがいま発売されているゼロマックス、そして味わいが深いとおっしゃったほうが、リニューアルに向けて開発中のゼロマックスなんです――」(文中敬称略)