「正直、そんなわがままな缶コーヒーをつくるのは無理だ、と思いました。でも、無理でもやれるところまではやってみよう。そうすれば、仮にこの企画はお蔵入りになっても、新しい何かがつかめるかもしれない。そんな気持ちでした」
小松はさっそく茨城県守谷にある商品開発研究所に向かった。商品開発グループの副主任・櫻井崇に試作品づくりを依頼するためだ。当時のことを小松は語る。
「缶コーヒーというのは毎日1本以上飲む3割ほどのヘビーユーザーが、全売り上げの7割を支えています。その人たちが最も好むのはブラックでも微糖でもなく、ミルク入りのレギュラーコーヒー。これが缶コーヒーの味の王道なんです。糖類をゼロにしても、味が王道から外れては意味がない。ですから櫻井には『糖類ゼロで、しかもレギュラーコーヒーと同じ味をつくれ』と指示したんです」
寡黙ではあるが、数ある缶コーヒーの味を的確に識別する舌を持つ櫻井は、小松の無茶な要求に文句ひとつ言わず、さっそく試作品づくりに着手した。
缶コーヒーは市場規模9000億円と清涼飲料の中で最大を誇る。ここでの勝敗はそのまま会社の業績に直結する。
「たかが缶コーヒーですが、社員全員の生活がかかっているという意味では、されど缶コーヒー。逃げ出したくなる重圧を感じることもあります」
そう語る小松が重視したのは「微糖」だった。同社のブランドであるワンダが先鞭をつけたジャンルだが、その後は苦戦を余儀なくされていた。ライバル会社に勝つためには、まず微糖ジャンルで勝たなければならない。そのためにはさらに強力な新商品が必要だ。正直「糖類ゼロ」などという夢物語につきあっているヒマはない、という気持ちもあった。