例えば、十一番札所と十二番札所の間にある湧き水を「大悲の水わき出」、つまり慈悲の水だと解説し、その「加持(加護保持)力」が柳を育んでいるという。近くを流れる川は「こり(垢離)とり河」。穢れをとる川だと紹介しているのである。

他にも「明白みょうびゃくなる鏡石あり」「四方岩にまんだら大師御ほり」「池中に恠異けい(不思議)の石」などと岩石類を指し示し、「諸病によしとて諸人もちさる」とそそのかしている。これらも言ってみればパワースポット。眞念もお決まりの札所を案内しつつ、「そこ」ではなく実は「ここ」だと誘っていたのではないだろうか。

華道家の假屋崎省吾さんの自宅、港区のラーメン屋…

私は再び群馬に出かけることにした。今回は世界遺産ではなくパワースポットへ。まずJR高崎駅の観光案内所で「パワースポットはどこですか?」とたずねると、女性職員が即答した。

「一番は榛名神社です」

——そこが一番、効くということなんでしょうか。

「効きま、す、……ね」

妙な音節だと思い、「なぜ、効くんですか?」と質問すると、「やっぱり有名ですから。有名さが他とはぜんぜん違いますから」。

有名はパワーの証し。有名だからパワーがあるのか。そういえば、以前目にした雑誌にもパワースポットとして華道家の假屋崎省吾さんの自宅や港区のラーメン屋が紹介されていた(『サンデー毎日』2016年1月24日号)。

有名人の家、有名人がよく来る店はパワースポット。有名人のパワーにあやかる、というより、「有名」と聞いただけで「キャー」と絶叫する、あのパワーが引き出されるということなのか。

「やっぱり榛名神社ですね。私も行きましたから」。別の女性(OL/23歳)はうれしそうに語った。

——行ってどうでした? 何か感じたんですか?

そう訊いてみると、彼女は首を傾げる。「ぶっちゃけ、ないです」

——ない? ないのになんで?

「ヒマだったんで。あんまりヒマだったので、友人と『上毛かるた』を引いたら『登る榛名のキャンプ村』と出まして。それで行けばいいんかなと思いました」

とりあえず行って、パワーをもらう

「上毛かるた」とは群馬県民が幼少期から愛好するカルタ。札には「紅葉に映える妙義山」「ねぎとこんにゃく下仁田名産」「理想の電化に電源群馬」などと身近な風物が詠み込まれ、遊びながら郷土意識を身につけるのである。

「パワースポットって、はっきり言って、ただの自己満ですから。本当に超自己満」

微笑む彼女。自己満足でしかないと念を押すのである。

——でも、願掛けとかしたんでしょう。

「縁結びとか?」

——そうです。

「しないですね。とりあえずパワーをもらえればいいと思ったんです。悩みって恋愛だけじゃないでしょ。とりあえず限定しないほうがいい。で、とりあえず行ってみたんです」