どうやら基本は「とりあえず」らしい。とりあえず行ってみて、とりあえずパワーをもらう。確かに「御利益」というと「良縁成就」「無病息災」「家内安全」などと限定されるが、「パワー」には汎用性があり、とりあえずチャージすればよいことになる。

——何かいいことはあったんですか?

彼女は「ないですね」と首を振り、思い出したようにこう言った。

「その後、結婚しましたね」。

——結婚されたんですか?

「彼氏ができて、結婚しました」

——じゃあ、パワーが効いたってことじゃないですか。

「あくまで結果として、ですよ。だってその後、妙義神社にも行きましたから、そっちの御利益かもしれないし。一緒に行った友人もまだ未婚ですし」

否定しているのか肯定しているのかよくわからないが、それぞれの御祭神も「パワー」として考えれば連携するかのようである。

「そういえば宝くじも当たりましたよ。10万円」

私が「10万円も」と驚くと、彼女はさらりと続けた。

「それも結果として、ですよ」

とりあえず行って分かったこと

パワーをもらった後に起きたことも「とりあえず」の結果らしい。とりあえず行ってみたら、とりあえずいいことがあったということで、私もとりあえず榛名神社に向かうことにした。

高崎駅から路線バスに揺られて1時間余り。バス停を降りると、そのまま参道に通じる坂道で、5分ほど歩くと榛名神社の鳥居である。一礼してくぐり抜けると、かつて仁王像が置かれていたという「随神門」。さらに進むと鮮やかな朱塗りの「みそぎ橋」。渡って榛名川のせせらぎを聞きながら、整備された山道を歩く。

清々しい。私は思わず深呼吸した。早朝で人気もないせいか空気が澄んでおり、気持ちがよい。気持ちがよいということは、やはりパワースポットなのか。

実際、山道の脇には様々なスポットが点在していた。洞穴状の岩石が水滴で削られて橋の形になったという「鞍掛岩」。岩と岩の間を毛筆で線を引くように滝が落ちていく「瓶子みすずの滝」。御神水が汲める「萬年泉」。

周囲には「シシ岩」「カメ岩」「大黒岩」「袖スリ岩」……、まるで自然がつくった庭園のようで、そもそも榛名神社の本殿は、「御姿岩みすがたいわ」という巨大な岩なのだ。

「ここは昔から雨乞いに来る神社なんです」

地元の梨農家の古老が語った。今も乾燥する時期になると、皆さんで「萬年泉」に祈願するらしい。

「ところがいつだったか、榛名神社が東京から見ると吉方位に当たる、とかなんとか言われて、その年にものすごい人が参拝に来ましてね。その時、みんなで『毎年吉方位だったらいいのにね』と話していたんです」