伊勢神宮が多くの人を引き付ける理由は何か。ノンフィクション作家の髙橋秀実氏は「女神の聖地であり、内宮と外宮に分かれることが巡りの元始となり、巡りのパワーが次々と観光スポットを生み出していく。やはり伊勢はパワースポットの鑑だ」という――。

※本稿は、髙橋秀実『パワースポットはここですね』(新潮社)を再編集したものです。

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全国8万社の頂点、伊勢神宮を巡る

午前5時。伊勢市駅から徒歩5分ほどにある外宮の前に私は到着した。参拝は本来「まず内宮を第一としなければならない」(櫻井勝之進著『伊勢神宮〔第三版〕』学生社 2013年)はずだが、なぜか鎌倉時代から外宮が先ということになったらしく、今も「外宮から内宮の順にお参りするのがならわしです」(伊勢神宮HP)と継承されているので、私もそれに従った。

この時期(5月~8月)の参拝時間は午前5時から午後7時まで。せっかくの機会なので一番乗りを目指したのである。

「どうぞお入りください」

制服姿の衛士に声をかけられ、私は橋(表参道火除橋)のたもとに進んだ。橋の脇には「下乘」の看板。馬から下りよ、ということでここから「神域」なのだ。

一礼して橋を渡ると、左手に手水舎てみずしゃ。柄杓で水をすくって手を清め、口をすすぐ。薄暗い中、水音が響いて静寂に包まれる。正面には森への入口というような佇まいの鳥居。一礼してくぐると、砂利が敷き詰められた参道が続く。ザッザッザッと踏みしめる音が森にこだまするかのようである。