牛丼四天王、実は大きく異なるそれぞれの味

とはいえ、この和風ファストフードの中心はなんといっても牛丼です。先に挙げた吉野家、松屋、なか卯、すき家の牛丼四天王は、それぞれの個性で熾烈しれつな競争を繰り広げていますし、そもそも牛丼の味からしてかなり違います。

なか卯の牛丼はこれらの中でおそらく最も「濃い味」の牛丼です。かつてなか卯の牛丼は最も薄味であっさりしていました。それもあって、なか卯が「和風牛丼」と銘打ってリニューアルしたとき、私はかなりびっくりしました。

牛丼なんだから「和風」なのは当たり前じゃ……と思いましたが、食べてみるとなるほど、それは「すき焼き丼」に近いもので、こってりとした甘辛い醤油味の、和の味わいが強調された商品でした。

すき家の牛丼は、なか卯の和風牛丼が登場するまでは間違いなく最も濃い味の牛丼でした。すき家という店名の「すき」はすき焼きをイメージしてのものだと聞きます。後発チェーンとして、先行する各店と明確な差別化を図ったということだと思います。

またすき家は「3種のチーズ牛丼」など、牛丼にトッピングを施したアレンジ牛丼を最初に打ち出したチェーンでもあります。既成概念にとらわれない、ある意味やんちゃなその商品開発はすき家ならではの魅力かもしれません。

ご飯がすすむ松屋、あっさり風味の吉野家

松屋の牛丼は、エリアによって320円の牛丼と380円のプレミアム牛丼の2種類ありますが、味の方向性には大きな違いはありません。なか卯やすき家に比べると、ぐっと大御所の吉野家に近い、すっきりとした味わいです。

しかし吉野家と比較すると若干、醤油の風味と味わいが鋭角的に立ったバランスで、思わずご飯が進んでしまう仕様です。松屋は今や定食のほうがメインと言ってもいいような業態になっていますが、その定食のおかずに通じるものがある、とにかく米を食わせようという意思が牛丼にも表れているように感じます。実際、米の量自体もこのなかで一番多いのではないでしょうか。

吉野家は、最もあっさりとして、そしてまろやかな味わいです。味付けの主体はもちろん醤油ですが、それが突出することはありません。重要な隠し味が甘口の白ワインだといううわさは昔からよく聞きますが、かなり信憑性があるとみてます。それもあってか、まごうことなき和風の味付けなのに昔ながらの丼物とは根本的に違う、都会的で洗練された味わいに感じるのです。