無農薬の野菜を食べさせたい
「サークルで活動するうちに、子供たちに無農薬の野菜を食べさせたいと考えるようになったのですが、それだったら自分でつくってみたらいいねということになりました。それで丹羽さんから紹介してもらったのが、シェア畑なんです。自宅からは車で40分くらいかかるので、畑を毎日見に来るわけにはいかないのですが、その分、この近所に住んでいる丹羽さんにケアしてもらっています」
それだけではなく、後藤さんには「北海道北見市の牧場で牛や馬や豚とともに育った」というバックグラウンドもあった。
「ぼくが子供のころに両親が運送業で独立起業したため、忙しくてよく祖父母のところへ預けられていたんです。北見市といっても山奥で、まだまだ運搬用に馬そりを使っていました」と後藤さんは振り返る。
祖父母の牧場には隣接して畑もあり、出荷用の野菜を育てていた。それだけではなく、牧場の隅のところで自家消費用のトマトやニンジンを栽培していた。こちらの作物は、ろくに肥料や農薬もやらない、野育ちの野菜。だからこそ「形は悪いけど味が濃かった」(後藤さん)。
シェア畑を前に、その思い出がよみがえってきた。
「ここでつくったトマトを食べてみて、思い出したんです。『トマトの味がする』って。牧場で食べたあの野菜を子供たちにも食べさせたい。そう思ったんですよ」
地元の高校を卒業してから後藤さんは群馬県の高崎経済大学へ進学した。「田舎が嫌で東京へ出ようとしたんですが、ちょっと方角が違いました」と笑うが、念願かなって関東へやってくることになった。いまも埼玉県に住み都内の会社に通っている。
ところがシェア畑に通って作物の手入れをするうちに、嫌だった「田舎」の感触が懐かしくなってきた。しみじみと言う。
「天候にも左右されて思い通りにいかないのが、逆に面白い。教えてもらった通りに作物を育てても、隣の畑と全然違うこともあります。四季だけでなく、処暑(19年は8月23日)や寒露(同10月8日)のような二十四節気を感じるときも。ここに来ると落ち着き、癒やされます。子供の体質も改善され、息子は作業にも興味を持っています。土と触れ合うのはいいですよ」
都内とはいえ、郊外の趣がある場所で、後藤さんの笑顔は絶えなかった。