失敗する役は、中国人に任せよう
電気もトイレも車も使えないうえに金だけ取られる。居住者のストレスは計り知れない。だが、もっとも頭を抱えているのは部屋のオーナーだと地元不動産業者の男性が内情を明かした。
「タワーマンションの管理費というのは、ここ10年の間に10万円を超えると言われています。タワーマンションの場合、大規模修繕にかかる費用が莫大で、1万そこらの管理費ではまったくまかなえていないんです。賃借人の場合、賃貸借契約で家賃・管理費が定められているので契約期間中は変わることはありませんが、所有者に関しては跳ね上がります」
地元不動産業者の男性いわく、「いま、不動産業界の人間で武蔵小杉のタワーマンションを購入する人間はいません」とのことだ。武蔵小杉のタワーマンションの値段は一気に上がりすぎた。賃貸借契約希望者はいまだに殺到しているものの、大勢のオーナーが部屋を売りに出している。売りが過多となっている以上、需要と供給の関係で価格が上がる可能性は少ない。そのため、投資目的ではなく居住目的で買う人が現れない限りは、まず売れない状況なのだ。地元不動産業者の男性が続ける。
「オーナーが部屋を手放したいといっても、買い手が付くまでは競売にでもかけられない限り所有するしかありません。今回の災害でさらに高く売れる可能性は低くなりました。デベロッパーは売って終わりですからね。本来物件を買わせる立場の私が言うことではないですが、そういった事情を知りながら、明るい言葉を並べて客に売りつけようとする業者もいます。知人の不動産業者は『武蔵小杉のタワーマンションを客に売ってしまった。一生呪われるのかな』と言っているくらいです」
地元不動産業者の男性は武蔵小杉のタワーマンションを購入したいという無知な客が現れても、恨まれるのが怖いので止めている。失敗する役はもう中国人だけに任せておこうというのが男性の認識だ。同マンションのデベロッパーである三井不動産に、今回の取材で得た情報の事実確認をしたところ、「本マンションは弊社グループの三井不動産レジデンシャル株式会社にて分譲済みであり、全戸お客様の資産となっております。従いまして、いただいたご質問は引き渡し済みの顧客の資産およびプライバシーに関する話であり、弊社からは回答いたしかねますので、よろしくご理解のほど、お願い申し上げます」とだけ回答があった。
武蔵小杉駅前を歩いてみると、不動産業者が近辺のタワーマンションのチラシを配りながら、通行人に購入を勧めていた。三井不動産のホームページには、『駅まで歩く時間も幸せに感じる、緑豊かな再開発エリアに暮らす。』と謳い文句が掲げられている。しかし、デベロッパーも不動産業者も売ってしまえば、あとはどうなろうと知ったことではないのだ。内見をした男性も「無駄に高い金を払ってまで水浸しにはなりたくない」と契約は見送った。