「株価をどうあげるか」が米国経営者の至上ミッション
成長力を高めるため、他社で実績をあげたプロ経営者を引き抜いて登用する、という発想もあります。日本でもプロ経営者を招聘した会社はいくつかありますが、生え抜きのプロパー社員が厚遇される傾向が強いですし、資本関係のある銀行から経営者を招くこともあります。
米国の場合はそういった関係性で選ぶのではなく、経営者としての資質、能力があるプロ経営者がトップに就いていることが多いです。
そのため、米国企業の経営者は、ROEや営業利益率、粗利、売上など、投資家が満足する数字を達成することを強く意識しています。マージンの出ない、たとえば営業利益率の低い部署はスピーディに切り捨てます。一株価値、会社価値をどのように上げるかが至上のミッションと言えます。
たとえば近年、私が「ずいぶん思い切ったことするな」と思ったのは、マグロウヒルという企業です。
マグロウヒルは、米国株投資家のバイブルとされる『株式投資の未来』の著者で有名な投資家でもあるジェレミー・シーゲル氏も推す、リターンの優れた企業でした。もともとは経済誌『ビジネスウィーク』などを発行していた出版社でしたが、企業の信用格付けなどを行うスタンダード&プアーズ社を買収し、出版部門、教育出版部門などを売却しました。ちなみに現在、『ビジネスウィーク』は大手経済情報サービス会社ブルームバーグの傘下になっています。
結果が出なければ祖業も、経営者も変えられる
マグロウヒルは学校の教師だった人が創設した会社で、教育出版部門はマグロウヒルの祖業と言えます。しかし出版事業の事業環境が厳しいのを見通し、金融サービスの方が成長性があると判断して、売却に踏み切ったのです。
以後、金融サービス業が事業の中心となり、2016年以降は「S&P Global」と社名を変えました。マグロウヒルに限らず、数字でシビアに経営判断をするのが米国企業の特徴です。ドラスティックなイノベーションが起きやすく、その成長性が連続増配当や株価上昇に繋がっているのです。
結果が出なければ部署がなくなってしまったり、経営者がすぐに変わったりしてしまうのですから、米国企業で働くのは大変だと思います。もしかしたら働きたい組織ではないかもしれない、競争の激しい組織です。しかし、投資するには最適、なのです。