セックスロボットに交換不可能性を見出す

冒頭の話に戻ります。人間が対象物に親近感や愛着を抱くのは極めて主観的な作用だと説明しました。では、そうした感情や感覚は何に由来するのか。それは、その人がある対象物に見出す「交換不可能性」です。

同じ犬種でも、うちの犬が一番かわいいと思う、あの感情です。実は、人間がこの感情を抱くのに、対象物と会話できるかどうかはあまり重要ではありません。

その証拠として、長年連れ添ったaiboが壊れてしまったとき、涙を流す人の例を挙げられるでしょう。aiboは人間と会話ができません。しかし、飼い主はそのaiboと何年もコミュニケーションを取ってきたという履歴により、そのaiboに固有性を見出します。

aiboは鉄の塊にすぎず、一つひとつのパーツは交換可能な存在でも、飼い主は勝手にそのaiboに固有性を見出すのです。つまり、AIの技術発達とそれが孤独を埋め合わせるなど、親近感や愛着を感じやすくなるかは全く別の議論です。

それはいま話題となっている、セックスロボットも例外ではありません。最新のセックスロボットは、人間の肌に限りなく近い全身シリコン製で、人間の触感をほぼ完璧に再現できています。また、センサーが全身に埋め込まれており、タッチされることで本当の性行為のときのように反応するという生身の人間に近い高度な機能を持ち合わせています。

現在、WHO(世界保健機関)は「セクシャルヘルスケア」の文脈で人間が性的に充足した生活が送れるという意味での「健康」の重要性を説いています。セクシュアリティと性的関係への積極的で敬意を持ったアプローチと、強制、差別、暴力のない、楽しく安全な性的経験を持つ可能性が必要であるというわけです。