人間と会話を成立させるための開発

文脈を理解するためには、情報が必要です。前後の文章や話すスピード、抑揚によって意味は大きく異なり、それらをくみ取って私たちは初めて言葉の意味を理解できるのです。そのため、AI研究において、人間と会話を成立させるための開発には長い時間を要してきました。

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仮にいま、こうした会話の文脈の理解ができるAIが開発されたとしましょう。その場合、我々の生活にどのような影響を与えるでしょうか。

例えば、一人暮らしをしている高齢者にとっては、そのAIが話し相手になってくれるでしょう。しかし、いくら会話ができても、そのAIに親近感や愛着、あるいは掛けがえのなさを感じなければ、やはり孤独が癒えることはないでしょう。場合によっては、AIと話をするほど、自分の境遇をかえりみて、孤独を感じることがあるかもしれません。

ところで、そもそも、人間にとって孤独はどんなときも悪いことでしょうか。実は、必ずしもそうとは言えません。ドイツの哲学者マックス・シュティルナーは「孤独は知恵の最善の乳母である」と言っています。孤独感は、創造性を育む土壌である、そう考えられることもあるのです。

アカデミックな文脈で言えば、孤独(loneliness)とは、「ひとりぼっち」と感じる心理状態のこと。いくら友人関係に恵まれていても、本人が孤独と感じれば孤独ですし、友人が1人もいなくても、本人が孤独と思わなければ孤独ではないのです。哲学者の三木清の言葉を借りれば「孤独は山になく、街にある。1人の人間にあるのではなく、大勢の人間の『間』にある」わけです。

その点で、社会学は「孤独」よりも「孤立(solitude)」を問題視します。ここに言う孤立とは、社会的に福祉の対象から外れてしまい、生存が危うい状態に置かれている状態のことです。近年問題になっている独居老人の孤独死は、正確に言い直せば「孤立死」です。

AIに何かを解決できる能力を期待するとしたら、それは会話によって孤独を埋め合わせることよりも、一人暮らしの高齢者が家から出ず、寝たきりになっていないかを判断し、適切なタイミングで行政や民間の福祉サービスに接続するような社会的な役割、その意味でのソーシャルロボットの役割でしょう。AI搭載型ロボットが福祉に貢献するのは、人々の孤独よりも孤立の手当てにおいてではないでしょうか。

むろん、ソーシャルロボットが普及し、社会的孤立の問題が解消されることで、個人の孤独も解消されることもあるでしょう。ソーシャルロボットが遠隔的にであれ、孤立した高齢者が何かしらのコミュニティに参加する手助けができれば、間接的に「AIが孤独を解消した」と言える場面も出てくるはずです。