コミュニケーションのツールをミックスし効果を増幅

宮本氏は、このエニカのコミュニティを生かそうと考えた。交流イベントの開催場所や回数を増やし、その内容の充実につとめることは当然として、こうした少人数のイベントを繰り返すだけでは、会員拡大のプロモーションという点では限界がある。

そこで宮本氏は、エニカの公式ブランド・サイトに「Anyca・ストーリーズ」というオーナーへのインタビュー記事を掲載することにした。コミュニティで得たエピソードを取材して、オウンドメディアの記事とすることにしたのである。

公式ブランド・サイトにオーナーへのインタビュー記事を掲載

このようにエニカでは、コミュニティ単体で成果をだすのではなく、他のコミュニケーションのツールとも組み合わせることで、価値を増幅している。

エニカの新規会員が、個人間のカーシェアという新しいスタイルのシェアリングを知るきかっけは、各種のインターネット広告やパブリシティ、そして既存利用者からの口コミなどである。そこから興味をもち、エニカのサイトを訪れた人たちに、個人間のカーシェアの楽しさを伝え、不安を払拭することにストーリーズは役立っている。

たとえばカーシェアには、事故などのトラブルもある。ストーリーズには、事故に遭ったオーナーの体験談も掲載されている。この高級車をシェアして傷をつけられたオーナーの場合は、ドライバーは礼儀正しく謝ってくれたし、エニカの担当者のサポートもあり、車の修理は順調に進んでいるという。

そしてエニカは愛車を通じて自分と誰かをつなげてくれる存在であり、事故に遭ったことでやめるつもりはないと語られている。新規のオーナー、ドライバーの双方の不安を払拭するとともに、エニカとは何かを伝えるエピソードとなっている。

さらに宮本氏は、コミュニティからのエピソードを、次のような展開にも活用してきた。テレビ番組からの取材を受けた際に宮本氏がストーリーズを案内したところ、番組制作者の興味をひき、当初予定の放送時間を拡大してエニカの紹介が行われることになったという。広告換算するとその効果は2億円ほどになるとエニカでは推定している。

教科書マーケティングは捨てよ

エニカは、個人間のカーシェアという新しいライフスタイルの価値を、利用者とともに見いだしながら、より多くの人たちへと広めることに成功している。その結果が現在の25万人の会員である。このプロモーションにかかわった宮本氏は、こうした相互作用のなかから新しい何かを生み出す創発には、教科書的なマーケティングのアプローチは捨てた方がよいという。