煮え切らない態度の裏側にある議会と首相の対立
そもそも19日に開催される国会では、新協定案が僅差で否決されるという観測が高まっていた。今回、下院は審議そのものを延期するという動議を可決したが、このことは実態として下院が新協定案を否決したことと同じ意味を持つ。そうであるからこそ、首相はEUに対して書簡を送らざるを得なくなった。
また未署名とはいえ首相が書簡をEUに送った事実は、首相にとっても10月末の「合意なき離脱(ノーディール)」が真意ではなく、EUや英議会から譲歩を引き出すための方便であったことを物語っていると言えよう。なし崩し的にノーディールが生じるリスクはまだあるが、その可能性は低下したと考えられる。
政権が協定を締結しては議会がそれを否定する。メイ前首相の時と変わらない光景が今回も見られたことになる。英国が煮え切らない態度に終始するのは、首相と議会の対立が先鋭化しているからに他ならない。強権的なジョンソン首相を擁立することで保守党はまとまりを回復したが、議会の過半を失った事実は変わらない。
保守党執行部がジョンソン首相という劇薬を飲んだ背景
保守党はまとまったが、議会を軽視するジョンソン首相の強権的な手法は、かえって最大野党の労働党やその他の勢力との対立を先鋭化させてしまった。今回の新協定案をめぐっては閣外協力関係にある北アイルランドの地域政党、DUP(民主統一党)も反対の立場を示しており、今や保守党は孤立無援の状態となっている。
そもそも保守党執行部がジョンソン首相という劇薬を飲んだ背景には、離脱交渉の膠着を巡って保守党の支持率が急低下し、代わってナイジェル・ファラージ氏率いる離脱党の支持率が急上昇したことに対する危機感があった。強硬派のジョンソン首相を擁することで、離反した有権者の支持を取り戻そうとしたわけである。
世論調査会社ユーガブによると、最新10月15日時点で保守党の支持率は37%と1月10日に記録した直近の最低水準(17%)から回復が著しい。一方で一時26%まで上昇した離脱党の支持率は11%に沈み、保守党への対決姿勢を強くする労働党の支持率は22%と第三勢力への躍進が予想される自民党(18%)とほぼ拮抗している。