NHKは「総務省の影」を恐れて忖度に走った

この鈴木氏、文書でも「放送法改正案の作成責任者」だったと語っているように、元総務官僚で、事務次官まで上り詰めた人物だ。よほど、メディアに言うことをきかせるよう考えたうえで法改正したかと言わんばかりの発言をしている。おそらくNHKは鈴木氏が持つ総務省の影を恐れたに違いない。放送免許を所管する監督官庁である。抗議を無視することはとうていできないと考えたのだろう。

長門社長は謝罪しているが、と記者に聞かれた鈴木副社長は「いろんな考え方がある」とだけ述べたと言う。もちろん、ここに至って、鈴木氏を除くほとんどの関係者が、番組への介入はなかったと口をそろえる。NHKの経営委員会のメンバーも、「ガバナンス体制」について言っただけで、放送内容を変えろと言ったわけではない、というのである。だが、それは詭弁きべんだろう。

石原委員長が上田会長を注意した際の発言も公開したが、「ガバナンス体制をさらに徹底するとともに、視聴者目線に立った適切な対応を行う必要があります。会長に対し、必要な措置を講ずるよう厳しく伝え、注意することとします」としている。必要な措置とは何なのか。鈴木氏が求めるように「個別の番組を最終チェック」することなのか。そうなれば経営委員会が気に入らなかったり、外部から抗議される番組を排除するよう「忖度そんたく」を求めているのと同じではないか。

「国営放送」ではなく「報道機関」であるべき

ちなみに、経営委員会は議事録の公開が義務付けられているが、「経営委員会の内規では個人情報、人事、協会以外の法人の情報などがある場合は、非公表としている」として、日本郵政からの一連の抗議については議事録から削除されていた。かんぽ生命問題が大きくならなければ、発覚しないまま闇に消えていた可能性もあるわけだ。

かねてNHKは外部からの圧力に弱いとされてきた。特に歴代幹部が政治部出身で、政権幹部とのパイプが太いため、政府の意向を忖度しているとうわさされることがしばしば起きてきた。最近も、官邸に近いとされる板野裕爾氏が専務理事に復活した人事が話題になったばかりだ。

NHKには視聴者からの受信料だけでなく、多額の国家予算が投入されている。だからといって、現政権に都合の良い情報や論調だけを流す「国営放送」になることは許されない。国民全体の利益につながる報道機関であることが求められている。

NHKの中堅社会部記者に聞くと、「番組を作る際、直接、上司からこのテーマはダメだといった言われ方をすることはない」と語る。同僚のディレクターも、今回の日本郵政の問題も報道されるまでまったく知らなかったと話しているという。では、「こんなテーマは通らないと忖度する空気はないか」と聞いたところ、言いよどんだ。