国や会社で大事なのは人材

私は『坂の上の雲』(文春文庫)など、司馬遼太郎の描く幕末から明治の物語が好きでしたが、この時代には華やかで前向きな文明開化の一方で、あまり知られていない暗い一面もあったのです。

ただ柴は、「賊軍」だった旧会津藩士でありながら、新政府の下で最後は陸軍大将にまで栄達しています。明治政府には彼らを出世させる公平な仕組みがあったのです。歴史にはいろいろな側面があり、それが互いに影響し合いながらダイナミックに動いているのだと感じさせられます。

本書を読んで改めて感じるのは、人材の重要性です。日本は第2次大戦で敗戦しましたが、比較的短い期間で復興を遂げました。それは教育レベルが高く、優秀な人材が大勢いたからでしょう。国も会社も大事なのは人の力です。

1987年の国鉄改革のときには、人員配置のバランスをとるために、多くの職員を自治体や企業に送り出しました。その方々の多くは、転出先で国鉄時代以上に活躍したと聞いています。国鉄にはそれだけ多くの優秀な人材がそろっていたのです。

一方で、それだけの人材を持ちながら国鉄が組織としてうまくいっていなかったことは、逆に組織にとってマネジメントがいかに大事かを教えてくれます。

▼自らの原点を深く認識する哲学書
独自の文明圏である日本で、私たちが生き方の手本にしているもの

「義」や「仁」について

新渡戸稲造『武士道』は歴史の教科書にも出てきますから、多くの人がご存じだと思います。ここでは山本博文訳『現代語訳 武士道』(ちくま新書)をご紹介します。

武士道』の著者・新渡戸稲造。(毎日新聞社/AFLO=写真)

「哲学とは、論理に則って考えていくこと」とすれば、『武士道』は哲学書とはいえないかもしれません。しかし武士道は私たち日本人の生き方の1つのベースであり、私たちの中に脈々と息づくフィロソフィです。アメリカの政治学者サミュエル・ハンチントンは1996年の『文明の衝突』(集英社)において、日本の文化を中国文明から独立した1つの特殊な「文明」として扱いましたが、『武士道』を読むと、「まさしくそうなのだろうな」と実感できます。

新渡戸稲造は本書の中で「義」について、「侍にとって、卑怯な行動や不正な行為ほど恥ずべきものはない」とし、赤穂浪士の仇討ちの例を引き、「『義士』という称号は、学問や芸術の熟達を意味するどのような称号よりも優れたものと考えられた」としています。