期待に応えようとがむしゃらに働いた結果……

「こんにちは、クロダです。無事に昨日シャバに戻ってきました。これからは心機一転やっていきたいと思っています。よろしくお願いいたします」

50代のクロダさんは、大きな体躯でハキハキと丁寧にものを言う。

彼は北関東の生まれで、高校を出てから食品加工の会社に正社員で就職した。

就職した会社は都内にいくつか販売拠点のテナントを持っていて、最初は仕分けなどの裏方の仕事に従事していたものの、持ち前の実直さを発揮して4~5年のうちには店舗を任される立場になったという。

彼はその期待に応えようとするために、がむしゃらに働いた。いや、働きすぎてしまったのかもしれない。

気がつけば仕事のストレスを酒でまぎらすようになり、毎晩1本だった缶ビールが2本、3本と増えていった。この頃から繁華街で飲み歩くようになり、悪い遊び仲間も増えていった。仕事でもささいなミスを連発するようになってしまい、どんどんうまくいかなくなってしまった。

もともと実直さがウリだったはずなのに、飲酒の影響か不眠の影響か、ついに決定的な失敗をしてしまい、北関東にある本社に呼び戻されることになったのだった。

「いま思えば素直に本社に戻って一から鍛え直してもらえばよかった。でも、変なプライドが邪魔をしたといいますか」

本社へ呼び戻されるのが不服で、25歳で会社を退職したクロダさん。しばらくハローワークなどに通ったものの、そう簡単に次の仕事は見つからなかった。

「度重なる受刑で精神的にも限界」

そんな時、常連になっていた居酒屋で、隣に座った男性と諍いを起こし、ついにはケンカになってしまった。

この時の相手が、のちにクロダさんの兄貴になるわけだが、クロダさんにとっては、まさしく運命の出会いだった。

「人生が一変しました。あの日、兄貴に打ち負かされたことで、酒に溺れて壊れかけていた心がよみがえったんです」

クロダさんが正式に盃を交わしたのは27歳の時だ。全国でもトップクラスの大きな暴力団の構成員としての人生がスタートした。組で彼が何をしていたのかは聞かなかった。両手の小指は欠損し、右手に関しては薬指もなくなっている。そして、度重なる受刑歴。何より、服役中に診断された覚せい剤依存という診断がすべてを物語っている。

でも、クロダさんはこうして暴力団を脱会し、刑期を終えてシャバに戻ってきた。脱会を決意したのは年齢もあるし、もう無理ができない身体になっていることも大きい。それに、度重なる受刑で精神的にも限界だったのだと話していた。