昨年12月に大阪市の心療内科クリニックで起きた放火事件では26人が犠牲になった。ノンフィクション作家の吉川ばんびさんは「犯人男性は事件を起こすまで生活に困窮しており、生活保護を2度申請するも、いずれも受給できなかった。事件の背景には、生活困窮者の社会的孤立という問題がある」という――。
放火殺人事件が起きたビルの周辺
写真=時事通信フォト
放火殺人事件が起きたビルの周辺=2021年12月30日午後、大阪市北区

申請を受理しないのは、れっきとした“違法行為”

貧困をテーマに執筆活動をしているからだろうか。最近、役所の窓口に訪れて生活困窮の相談をしてもどうにもならないまま追い返されてしまった、という人の受け皿として、なぜか作家である自分が機能しつつある。

私の本業は執筆活動なので彼ら彼女らの相談に乗っても私には1円も入ってこないどころか、相談者を適切な支援窓口に繋ぐために数日を費やすこともあり、その間はまったく仕事ができない(生活費を稼げない)ので、窓口の担当者の人には本当にちゃんとしてほしいと思ってすらいる。もちろん、しっかり職務を全うしてくれている職員の方もいるのは重々承知ではあるのだけれど。

以前、知人の親族にがんが見つかった。がんが進行していたため治療に集中せねばならず退職を余儀なくされたものの、高額の治療費が支払えず、さらに生活困窮に陥ったため、他に手段もなく、生活保護を申請するため福祉事務所の窓口を訪れた。事情を説明すると、担当者である職員は驚くべき言葉を発したという。

「治療費が払えないならその分、働けばいいんじゃないですか」

自分ががん患者であることも、働ける状態でないことも伝えたにもかかわらず、まったく取り合ってもらえないことに絶望した男性はその日、生活保護受給申請をさせてもらえないまま門前払いを食らってしまった。

ちなみに生活保護費は要件を満たさなければ受給できないが、申請自体は、誰でも行うことができる。相談者が申請を希望している場合、申請は必ず受理されるべきものであり、数時間の相談の末、窓口で申請もさせずに追い返すという対応はれっきとした“違法行為”である。