土地と建物を所有していたが、現金収入はゼロだった

そうした対応が事件に発展するケースもある。2021年12月に大阪市北新地で26人が犠牲となる放火殺人事件を起こし、死亡した犯人の男性は、事件以前の2017年と2021年に生活保護を2度申請していたが、受給できず生活に困窮していた。

男性は2011年4月に長男の頭などを包丁で刺したとして殺人未遂罪などに問われ、同年12月に懲役4年の判決が確定、2015年まで服役していた。時事通信の記事によると、2015年1月時点で150万円あった預金残高は、昨年1月にはゼロになっていたという。

10年以上定職に就いた形跡がなく、土地と建物を所有して家賃収入を得ていたが、2020年9月に住人との賃貸契約が終了。北新地のビルに放火をした当時、男性の所持金はわずか1000円だった。

産経新聞の記事によると、2017年に申請した生活保護受給が認められなかった理由は「家賃収入」であったという。家賃収入が得られなくなったあと、昨年1月に預金から83円を引き出し、残高はゼロになった。電気やガスを止められ、再び生活保護を申請したが、またしても認められなかった。

セーフティーネットの網目をすり抜けてしまう

クリニックの院長を含む26人が犠牲になった事件の犯人の窮状が報じられると、生活保護受給を認めなかった行政の対応への疑問の声が次々に上がった。土地と建物を所有していたとしても、現金収入がなく、預貯金がゼロであれば、例外的に生活保護受給が認められる場合がある。申請時のやりとりは不明のままだが、「不動産所持」が受給できない理由となった恐れがある。

福祉事務所の人員不足は深刻化しており、こうしてセーフティーネットの網目をすり抜けてしまう例は枚挙にいとまがない。私がこうして筆を執り続けるのは、生活保護申請や生活再建支援などにまつわる、行政側の不適切な対応が少しでも改善されるのを望んでいるからだ。

行政が水際作戦を行う背景には支出削減への焦りがある。そして、そのプレッシャーをかけているのは「生活保護はけしからん」という風潮である。生活保護制度を正常に機能させるには、生活困窮者への誤解を解きながら、行政の対応の問題を繰り返し指摘する必要があるだろう。

このやり方は地道なようで、意外と近道なのかもしれないと思いながら、目的のために日々試行錯誤を重ねている。

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