暴力や過干渉で子どもを支配し、子どもに悪影響を及ぼす。そうした親は「毒親」と呼ばれ、最近、問題視されることが増えた。精神科医の斎藤学さんは「親を『毒親』と憎む人は、実は『こんな自分で申し訳ない』という自罰的な感情を持っていることが多い。いつまでも親を責めるのではなく、自分に目を向けてみてほしい」という――。

※本稿は、斎藤学『「毒親」って言うな!』(扶桑社)の一部を再編集したものです。

子供の規律
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「毒親」憎悪につながる罪悪感とはなにか

自罰感情(罪悪感)はどんなふうに生まれ、どんなふうに人生へ影響を与えるのか、症例を通じてお話ししましょう。

Aさんは名門私大の理学部修士課程を修了し、国立大学の博士課程に進学しました。

しかし、いよいよ博士論文を書こうかというところで、彼女の華々しい履歴は中断されます。バイト先の予備校の控え室で、同僚のハンドバッグから現金を盗んでいたことが発覚してしまったからです。この件をきっかけに治療に入ったAさんは、窃盗癖のほかに、中学1年生の頃から過食症の病歴を抱えてきたことを告白しました。

彼女が通った中学は、東京では最高ランクの難関校とされています。Aさんが中学に入学した直後、同居していた祖母が70代で亡くなりました。この祖母はAさんの父を介して一家5人(父、母、Aさん、妹、弟)に君臨していて、彼女は長く祖母を憎んでいました。祖母は何に対しても貪欲どんよくで、彼女の夫の時代からの家業である会社の経営さえ、息子(Aさんの父)に任せられない人だったからです。

祖母の死をきっかけに性格が変わっていった

当然ながら、息子の嫁(Aさんの母)にとっては鬼でした。すべてを我が手のうちに握りしめ、生活の細部に至るまで統制下に置こうとするので、Aさんの母はしゅうとめ(Aさんの祖母)が死ぬまで何ひとつ自分で決められないという苦しい生活を強いられていたのです。

Aさんは、悩み苦しむ母に寄り添いながら祖母の貪欲さを憎み、祖母ががん告知を受けて床に伏すようになってからは、「1日でも早く死ねばいいのに」と念じました。それが中学受験のために勉強していた頃で、見事に合格して中学1年生になったとき、祖母が亡くなります。その後です、彼女の心に思ってもみなかった変化が生じたのは。

自らが願っていた祖母の死を知ったとき、Aさんはひどく動揺したのですが、しばらくするとそのショックの記憶さえ失いました。祖母については何も考えなくなったのですが、同時に彼女の性格(つまり行動パターン)に変化が生じていたのです。