窓口で傷つけられ、誰も信じられなくなる

しかしながら、生活保護の申請をめぐってはこうした行政側の「水際作戦」が横行しているのが現状で、数時間にわたって根掘り葉掘り答えたくないプライバシーについて聞かれ、結果「働けないのは甘えではないか」「まずは家族に頼るべき」など、ひどい言葉をかけられたり傷付けられたりした末に、非現実的な解決策を提示されて申請すらさせてもらえないケースが後を絶たないのだ。

幸いその男性は後日、親族や社会福祉士などがサポートしながら生活保護を申請、無事に受給が決まったものの、こうした支援を受けられずに役所から足が遠のいてしまう困窮者は非常に多い。

「役所の人もNPOの人も……誰を信じればいいのか」

このようにセーフティーネットの網目からこぼれ落ちた人たちのうち、私が窓口でのずさんな対応について非難したり貧困の仕組みについて書いた記事や本にたどり着き、さらに助けを求められる人はほんの一握りだろうと思う。

大抵の場合は深く傷つき、不信感を覚え「誰かに助けを求めようとすれば、今度は立ち直れないほど傷付けられるんじゃないか」といった不安に苦しんで、せっかく福祉につながりかけていた糸がプツリと切れてしまう。そうなれば最後、たとえ誰かに手を差し伸べられたとしても完全に心を閉ざしてしまい、社会から完全に孤立した状態のままどこにも寄る辺がなくなってゆく。

「困っている割にはずいぶん小ぎれいな服を着てるんですね」

これまでに私が関わった生活困窮者のほとんどが、過去に役所の窓口以外にも、就労移行支援の場、精神科や心療内科、生活困窮者支援などを行うNPO団体など、本来もっとも「公的福祉につなげやすい場」であるはずの組織や機関において差別的な扱いを受けたり、からかわれたり否定されたりした経験を持っていた。

発達障害で就労移行支援を受けていた男性は、職員から「困っている割にはずいぶん小ぎれいな服を着てるんですね」といった侮辱を受け、二度とその場に行けなくなってしまったという。

精神疾患で入院していた過去がある女性は、就職するも再び症状が悪化してまともに働けなくなり、当時、睡眠導入剤を処方してもらうために通っていた心療内科で経緯を説明し、障害年金の申請をしたいと相談をしたところ、医師から大きなため息をつかれた。「あなたみたいな人、よくいるんだよね。眠れないくらいじゃ要件に該当しないの!」と嘲笑されたため、「過去に入院していた大学病院で診断を受けているが、それでも該当しないのか」と聞くと、今度は「それはうちでは診断してないから、その病院で聞いてください。以上!」と言われ、それ以上は一切取り合ってもらえなかった。

患者を診察する日本人男性医師
写真=iStock.com/kazuma seki
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他にも枚挙にいとまがないが、私の元に相談がきたとき、彼ら彼女らはかなり追い詰められている様子であり、「死ぬしかないのでしょうか」と口にする人も少なくなかった。限界に達して、やっとの思いで助けを求めた先でひどい目に遭わされたために「もう誰を信じればいいかわからない」と絶望する人々の様子を目の当たりにするたび、不適切な対応を行った専門家や支援機関への怒りを覚えずにいられない。