なぜ豚のカシラも「もつ」と言われるのか

「もつ」とは臓物ぞうもつの略であって、内臓肉のことだ。たいていの場合が、牛が豚である。ただ、正確には内臓とはいえないような部位も「もつ」とくくられることがある。

試しにもつ焼き(やきとん)店のメニューを見てほしい。レバ、ハツ、タン、カシラ、シロ、ガツ、テッポウ、チレ……というように、もつ初心者にとっては、なにかの呪文にしか思えないような商品名が並んでいるが、このなかで「カシラ」というのは、たいていの店では頰肉のことを指す。

そこで、疑問に感じた方はいないだろうか? そう、頰肉というくらいだから、「内臓」ではなく、「肉」なのだ。味わいや食感も「肉」そのものである。なぜ、カシラが「もつ」として扱われるのかといえば、それはもつが流通する仕組みに関係がある。

以前、雑誌の取材で群馬県内の屠畜とちく場を訪れる機会があった。解体、処理、加工の過程を見学させてもらったので、そのときの流れに沿って説明しよう。そこでは、豚や牛は屠畜されると、1体ずつ頭を上にしてフックに吊られて解体場にまわされる。そこで、作業員によって手際よく、頭のつけ根から腹にかけてナイフが入れられると、胴体から頭部と内臓が切り離されて、下のフロアにある加工場にズドンと落とされる。残った胴体は「枝肉」と呼ばれ、そのまま吊されて別の加工場に運ばれる。

酵素の動きが活発で、足が早い「畜産副生物」

このとき、下のフロアに切り落とされた部分は、正式には「畜産副産物」と呼ばれる。畜産副産物のうち、食用ではない原皮(なめしていない皮)を除いた部分を「畜産副生物」といい、これが「もつ」の正体だ。もうおわかりのとおり、「カシラ」が「もつ」として扱われるのは、解体場において頭部と一緒に切り落とされた畜産副産(生)物であるからだ。

畜産副生物は、専門の卸売業者が加工場で部位ごとに分割、成形し、小売店や飲食店に販売する。とはいえ、正肉と比べると酵素の働きが活発なので足が早いうえ、調理の前に下処理が必要なので、一般的な精肉店で扱うことは少ない。スーパーなどで売られている場合は、下処理済みのものがほとんどだ。したがって、新鮮な国産のもつを使った料理を味わうには、専門業者から仕入れている飲食店に行く必要がある。