「ファクトフルネス」という考え方

2019年にベストセラーとなったハンス・ロスリングの著書『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』(日経BP)という本には、いかに私たちが思い込みと先入観を持った中で生きており、それを思考の基準や物事の判断軸としているかが書いてあります。

今の時代でビジネスをやる上で必読の書であり、それはモバイルにおいても同様です。

もし、多くの企業の経営層がモバイルに真剣に向き合い、ファクトを押さえた上で戦略的に捉えるならば、「カスタマーエンゲージメント」を実現する一つの手段として優先度を上げる判断をするはずです。

カスタマーエンゲージメントは短期的な収益増を狙うものではありません。ライフタイムバリュー(顧客生涯価値)を長期化するために取り入れる考え方なので、多くの経営層が事あるごとにいう「費用対効果」というレガシーな判断軸とはマッチしません。

中長期目線で生活者・顧客と良い関係を維持し続けるためにモバイルという手段をどう使うのがよいのか。この発想になると企業目線ではなく生活者目線で考えるようになるはずです。つまり、「どうすれば生活者は自社と接してくれるのか」という視点で顧客体験を設計するようになります。

動画サービスは「ネットフリックス」という先入観

一例を挙げます。昨今多くの広告を見る機会が増えていると思いますが、動画配信サービスは世界中でビジネスを拡大しています。国内だけでも多くのプレーヤーがビジネスをしており、しのぎを削っています。

なかでもよく聞くキーワードは「Netflix(ネットフリックス)」ではないでしょうか。「ネトフリ」と若年層に略され、テレビ広告も多く流れるなど、動画配信サービスの総称のように使われています。

こういった動画配信サービスが急速に広がることで、その他の業界の方々は、メディア接触のトレンド理解、広告投下先の選定、生活者のコンテンツ・サービス嗜好の把握、生活者が好むUI/UX分析のようなビジネスへの活用が考えられます。

新しいビジネスの拡大を「自分ごと」として捉えることによって、上記のようにアイデアを出して自社ビジネスに生かせないかと考えることが重要です。

ファクトフルネスの文脈でいうと、ネットフリックスを最も成功している動画配信サービスと「思い込んで」ウォッチしたり、分析したりすると、見誤ってしまいます。以下をご覧ください。

日本国内のスマホのiOSとAndroidにおいて、2017年1月〜2019年6月の各動画配信サービスアプリのMAU(月間アクティブユーザー=1カ月に1回以上利用した人数)を示したアップアニーのデータです。ネットフリックスのユーザー数はアマゾンプライムビデオの約3分の1だと分かります。

このデータはスマホの利用人数であるため、テレビなどのデバイスで視聴しているユーザーは含まれません。それでもアマゾンプライムビデオと3倍の開きがあると知らずにネットフリックスが日本国内でトップシェアだと「思い込み」、サービスやUI/UX、コンテンツやプロモーション手法などを参考にするのは見誤っていることがわかるかと思います。