外側だけの傷なら加工食品にできる
【有坪】破棄しているものを現金化できれば、そのぶん利益率は上がりますね。
【松尾】そうなんです。そもそもクリシギゾウムシは、孵化するのが2割くらいなんです。焼き栗には絶対に入れられないのですが、加工食品に使うことは可能なので、生栗の状態で地元の食品会社に1キロ350円で卸していました。それでも、栽培経費自体、1キロ800~900円くらいかかっているので赤字です。だから一昨年、お世話になっていた食品会社の方に取引の休止をお願いして、自分のところで商品化することにしました。
ゾウムシの疑いがある栗だけを集めて、それも熟成させます。もちろん2割は孵化します。一方で、残りの8割は外見だけは傷が付いていたりするけれど、中身はなんともない、おいしい糖度20の栗になっています。これを焼いてペーストにして売ればいいじゃないかと考え、「焼き栗棒」と「焼き栗ペースト」という商品にしたわけです。
【有坪】いくらで販売しているのですか?
【松尾】一般的な栗のペーストは、1キロ4000円くらいです。これはたっぷりと加糖した糖度50の商品です。ケーキ屋さんなどが、モンブランに用いたりします。一方で、うちの商品は糖度30ですが無加糖です。これを1キロ6000円で売っています。小売価格だともう少し高いですが。
「6次産業」はやり方次第で魅力的なビジネスになる
【有坪】販売先はどちらになりますか?
【松尾】業務用には難しいので、一般消費者向けに販売しています。砂糖断ちしている人や、健康志向の方、糖質制限のある方などにすごく喜ばれています。もともと1キロ350円で卸していたものを1キロ6000円で売るわけですから、もちろん手間はかかっていますが、利益率はかなり改善されました。
【有坪】6次産業について、本(『農業に転職!』)の中では「安易に手を出すべきではない」といったことを書きましたが、松尾さんのお話を聞くと、やり方次第では小規模な農家さんにとって魅力的なビジネスであるように感じました。
【松尾】ありがとうございます。でも、やっぱり一筋縄ではいかないですよ。たとえば朝市での実演販売などは、少しずつ売上は落ちていますし。目新しさがなくなっていくということもありますけども、人口が減っている分「輪島朝市」のお客さん自体が減っているということもありますから。ですので、現状に固執しすぎないよう、これからも勉強し続けていきたいと思っています。
【有坪】ありがとうございました。
取材協力/いしかわ移住UIターン相談東京センター(ILAC東京)、いしかわ就職・定住総合サポートセンター(ILAC)、農林水産部農業政策課