大規模テーマパークの運営に近い仕事ではないか

組織委員会は11局、7つの室に分かれている(2019年4月現在)。大会運営、会場整備、警備、輸送といった最前線の仕事から総務、企画財務、広報といったスタッフ部門まで多岐にわたっている。

この種の仕事に、いちばん似ているのは何かと考えてみた。おそらく近似しているのはディズニーランドのような大規模テーマパークの運営ではないか。施設を造り、無事にイベントを実行し、客を集め、輸送ルートを計画し、警備に万全を尽くす。オリンピック・パラリンピックは、期間限定ではあるが、そういう種類の仕事である。

東京大会に参加する選手の数の上限はオリンピックが1万1090人で、パラリンピックが4400人。競技と種目の数はオリンピックが33競技339種目で、パラリンピックは22競技537種目。

選手だけではなく、コーチ、監督といったスタッフ、家族友人知人、一般観光客まで加えると、大会が始まる7月末から9月の初めまでに1000万人以上が東京に訪れると推定される。

組織委員会の仕事は1000万人のおもてなしをすることでもある。会場の準備をすべて整え、競技を円滑に実施する。観客がスムーズに入場、退場できるようにする。加えて輸送計画、テロなどを防ぐ警備……。そして、大会を記録する公式映画の制作も担う。

「大会後の日本社会」に何を残せるのか

「大会が無事に終わるのは当たり前」と小林氏。

寄り合い所帯であり、さらに外国人スタッフ、障がい者もいる。ダイバーシティ(多様性)の組織である。そして、大会までには1年しかない。ケンカや縄張り争いをしている時間はない。

「私たちは2020年の大会を無事に運営して成功させるのがミッションなのですが、それにとどまらないと思っています。大会が無事に終わるのは当たり前。IOC、IPCは、各大会を経ていますから、運営するノウハウを持っています。それを実行するのは本当に大変ですが、彼らと一緒に大会を盛り上げていきたいと思います。

大切なのは、その後の日本の社会に何か残していかなきゃいけないこと。レガシーが重要なテーマです」(小林氏)

オリンピックのレガシーとは残された競技施設のことだけではない。大会の後、スポーツイベントや社会で使われるようになったシステムもまたレガシーだ。

たとえば、レガシーのひとつとされる聖火は近代オリンピックでは1928年のアムステルダム大会から始まった。聖火リレーは1936年のベルリン大会から。競技を表すスポーツピクトグラムが本格的に運用されたのは1964年の東京大会からだ。ピクトグラムは日本だけでなく、今や世界に根づいている。そして、大会のマスコットが始まったのは1972年のミュンヘン大会から。いずれもレガシーである。2020年東京大会のレガシーは、いったいどういうものになるのだろうか。