誤った診断は、二次障害を引き起こす

ADHDについても、かつては児童期の病気と見なされていました。そのせいで、まだまだ「ADHDは子どもの病気」「大人になるにつれて、自然に多くが改善する」という誤解が多くみられます。

確かに思春期以降に、一見すると症状が目立たなくなるケースもあります。これは多くが、本人の努力によるものです。

しかし、多くのケースでは、大人になってからも何らかの症状が続き、生活に支障が出ています。

例えば、会社において、普通なら考えられないようなケアレスミスをする、段取り下手でスケジューリングを守れない、突発的なことが起こると動揺してパニックを起こす、などがよくみられます。

ADHD特有のこうした傾向が、周囲からは本人のやる気の欠如や、能力不足、不真面目さとして、否定的に評価されることもしばしば起きています。

そのため、ADHDの当事者も自己否定的になりがちで、その結果、うつ病やパニック障害などの不安障害を二次的に起こすことも珍しくありません。

このような二次障害に隠れてしまい、大人のADHDが正しく診断されないことは、現在でも珍しくありません。

専門である精神科医ですら、いまだに正しい知識を備えているとは言えないのです。「よくわからない」と言って診断を断る医師も存在していますが、このような状況は変えていかないといけません。

「発達障害かも」と思ったときの判断基準

私の診察室にやってきた患者の事例です。東京六大学に在学中の方で、本人は「ストレスを感じやすい、自分に自信がない、他人がどう思っているか気になる」といった自覚症状を訴えました。

しかしこれらは二次的に出現した症状です。診察を進めるうちに、主な症状は、「忘れっぽい、無自覚な行動が多い、スケジュール管理が苦手、対人関係が苦手」、さらに「2つのことを同時にできない、集中力がない、優先順位がつけられない、落ち着かない」といったものであることがわかりました。

いずれもADHDに典型的な症状です。ここまでの症状がそろっていて、以前から連続していれば、明らかにADHDだと診断がつきます。

なお、彼は行動上の失敗の例として、「羽田空港に向かわなければいけないのに成田空港に着いてしまった」というエピソードを話してくれました。

通常ではまずありえない間違いですが、これはADHDの特性である不注意からくるものと考えられます。彼は正常以上の知能を持ち、ある有名証券会社に就職が決まっているのですが、これから苦労しそうです。