ADHDとASDの混同は今すぐ修正すべき

夫婦関係の問題でやってきた男性患者の事例もあります。彼の自覚症状は「妻に対して自分勝手な発言が多い、妻の話をちゃんと聞けない、暴言を吐いてしまう」というものでした。

詳しく話を聞いていくと、こうした問題の背景にあるのは自分の衝動性をコントロールできないという特性であることがわかってきました。これも、ADHDによく見られる症状です。

この患者は妻に連れられて受診しました。妻の訴えは夫の暴言よりも、「自分の話をちゃんと聞こうとしない、スルーする」といったことが中心でした。誰しも多かれ少なかれこういうところはあると思いますが、ADHDでは極端に表れます。

アスペルガー症候群などのASDと比較して、ADHDの場合は自己診断が比較的正確です。私は烏山病院でADHDの専門外来を担当していますが、「自分はADHDではないか」と自己診断してやってきた人の7~8割は、その通りADHDの診断がついています。

一方、「自分はアスペルガーではないか」と言ってやってくる方が正しい診断であるのは3割程度です。実際は、他の疾患であることが大部分です。

繰り返しになりますが、「人付き合いが苦手=発達障害=アスペルガー」といった誤解、思い込みは、修正する必要があるでしょう。

「発達障害」は病名か

「発達障害」は、いくつかの疾患を含んだ疾患の総称です。発達障害という独立した疾患があるように語られることがありますが、それは誤った考え方です。

あらためて整理しましょう。発達障害とは、注意欠如多動性障害(ADHD)、アスペルガー症候群などの自閉症スペクトラム障害(ASD)、限局性学習障害(LD)などの疾患を全体的に指す言葉です。他にも、さまざまな疾患が含まれます。

そのうち症例が多いのはADHDとASDであり、特に多いのはADHDです。本書においても、ADHDとASDの2つを中心に扱います。

ADHDは「不注意」と「多動・衝動性」を主な症状としています。落ち着きがないことや、ケアレスミスや忘れ物が多いことなどが、特徴として挙げられます。

一方、ASDの症状は「コミュニケーション、対人関係の持続的な障害」と「限定された反復的な行動、興味、活動」です。人の気持ちがわからないこと、場の空気が読めないことなどに加えて、電車などの乗り物や列車の時刻表など、特定のことに強いこだわりを持つことが特徴です。

このこだわりの症状については、他に自分自身の行動パターンについてのこだわりも含んでいます。そのため、極端な「マイルール」を持っていると言い換えることも可能です。